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■ 近頃のこと

2016/10/12

フクロウを作る。

裏山の大きな椎の古木が若葉で眩しい頃になると、毎年『ホッホーッ、ズルットホーッ...ホッホーッ、ズルットホーッ』という独特の鳴き声が、夜毎その椎の木辺りから響き始めるのです。それはアオバズクだと聞かされていました。
『ズルット...』という鳴き声の表現は妙なのですが、物心ついた時にはその声を耳にしていて、そうやって鳴いているのだと教えられたのです。何年か声を聞けなかったこともありましたから、何代目というような直系ではないのでしょうけれど、若葉の匂いも青々しい夜に再び鳴き声が伝わって来た時には、久しく離れていた旧友と再会したようで、随分と嬉しかったものでした。ずっと、あたかも椎の洞に住みついている主のように思っていたのですが、アオバズクだとすると四月に渡って来て十月には暖かい地方に帰るらしいので、ほんの半年ばかりの住み家だったのでしょう。
昨年、青い栗が実を付けた枝にフクロウが留まっているという平薬を作ってみたくて計画したものの、青栗のイガは頭で考えた方法では出来ないと分かるなり頓挫して、フクロウを作ることまで止めてしまっていたのです。しかしこの八月には、平薬にするには大き過ぎると思っていた鳩も何とか木彫彩色して平薬に仕立てられましたし、つい先日は複雑なザクロの実の木彫彩色も面白く出来たことでもあり、フクロウを主役にした平薬だって何とか出来るだろうと、木っ端を貼り合わせて塊にしてあったのを使って、アオバズクを彫り始めたのです。
数あるフクロウでもアオバズクにしたのは、図鑑に 載っていた手描きの絵によるアオバズクのポーズがあまりにも可愛らしかったからなのですが、何せ右横から描かれた図一つきりしかありません。勿論、インターネットでは実物の写真を幾つも見られますから、それに較べると図鑑の絵は随分大雑把に描かれているらしく、実物とは随分違っているようなのです。しかし、私が彫って彩色するものは、龍や白虎といった架空の動物ですら人形然としたものになってしまい、そもそも写実を目指してのものではありませんから、ならば実物は木彫りする上で骨格など基本的な造形の参考にさせて貰うことにして、色彩などあくまでも図鑑の絵で私がイメージしたアオバズクを目指して、完成させることにしたのです。
さてこの絵空事めいたアオバズクをどんな有職造花と組み合わせたら良いものか、ギビタキが突然思い付いたザクロと組み合わされたように、そのうち思い付くだろうと気楽に構えていたら、やはり突如閃いてもうすぐ完成です。アオバズクを添えた秋の平薬をと目論んでいたものの、結局その名の通り青葉の季節の平薬になったのですが、秋の平薬にならなかったのかと言えば、今回も私の制作の行方は変わりやすい秋の空と同じでしたから、やっぱり秋の平薬だったというオチなのです。

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