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■ 近頃のこと

2019/09/23

カッコウの平薬を作る

たまたま東京芸大美術館で開催されていた『円山応挙から近代京都画壇へ』という展覧会に巡りあったのです。
飾り物である平薬のヒントは、装飾的な様式に至った琳派などの絵画から得られることが多いのですが、あまりにも上方趣味に洗練された尾形光琳よりも、私は酒井抱一の親しみある世界の方に惹かれてしまいます。今まで、何度も何度もヒントを貰ったり、作品そのものの一部を写してみたりしましたが、それらは今でもお気に入りの平薬なのです。
この展覧会では、応挙の描いた植物スケッチの巻物も展示されていましたが、ともすれば画家としての主張や、技術上の都合で描かれてしまいがちになるものを、あくまでも写生に徹した見事な描写は、どんな風に花が出来ている、葉が付いている、枝が張っている、色が付いているということから葉脈の通り方まで、そのまま植物図鑑に使えるほどの正確さなのです。
それでいながら、やはり装飾絵画を手にした画家の視点による写生ですから、有職造花制作にどれだけ役立つことか。しかしそう思うならば、こうした写生帖を自分で作れば良いだけなのですけれど。
展覧会は、軸物と屏風が大半でした。その屏風の1つに、猛禽類の鳥と藤の花を組み合わせた作品がありました。鮮やかな緑青で描かれた檜の葉の手前に枯れ枝があり、そこに猛禽類の鳥が1羽止まるのですが、その枝に山藤が巻き付いて若々しい葉を繁らせ、花房を垂らしているのです。檜の葉を作るのは無理なのですが、鳥、枝、山藤の組み合わせは、そのまま平薬になると即座に閃きました。
翌日から制作に掛かったのですが、猛禽類はハヤブサを作ったばかりでしたし、お気に入りの図鑑にあったカッコウに惹かれていましたから、猛禽類をカッコウに替え、薄い黒群青の体に映えるよう、藤の花房は極く淡い赤紫に決めたのです。
さて、そうやって出来た枝にカッコウを止まらせてみると、やけに鳥が大きく見えるのです。仕方なく彫り直しを覚悟したものの、とにかくカッコウの体長はどれくらいなのだろうと調べてみれば、何と35㎝もあるのだそうです。昔の唱歌とか宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』をはじめ、その鳴き声ゆえか様々に登場してきた有名人のカッコウだというのに、そういえば姿など見たことがありません。ともかく、随分大きく見えてしまったカッコウでしたが、藤の花房と対比させても決して大き過ぎたわけではなかったのでした。
さてその藤の花房ですが、中央とその下方に下がる房だけは、何時もながらに固定せず、風や振動に揺れるようにしました。一番長く仕立てた房を、わざわざ平薬の輪からはみ出させて下げたのは、縦長の構図にすることで、山藤ならではの長い蔓(つる)を感じさせたかったのと同時に、カッコウが大きく見え過ぎないような、いわば目眩まし効果を狙ってのことでもありました。
屏風では濃い緑青で強調されていた檜の葉の代わりに、深山桜の青葉と白い花を加えてみれば、色彩構成も引き締まったようです。
カッコウの彩色に手こずり、決してすっきりと仕上がったわけではないのですが、どこか愛着の残る平薬になりました。

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