有職造花

■ 有職造花とは

有職造花は、室町時代に華林流を元祖として、京都御所を中心に発達したといわれる絹の造花です。御所での行事や儀式、とりわけ五節句の節会で、主に邪気祓いを意図して公家文化に花開いた“造り花”の世界と申せましょう。
その色彩(染め色)は、自然の再現を目指したアートフラワーの中間色によるソフトな色彩とは別次元に、紫、白、赤、黄、緑という陰陽道の五色を基本とする極彩色が多用されますが、これは有職造花が飾られた部屋の照明(行燈や燈台、蝋燭など)の明度からして、濃い色でないと映えないためとの説もあるようです。
やがて、公家のみならず武家の婚礼や遊興風俗にも、その必需品として数々登場して行きますが、江戸吉原に有職造花の代表格である奈良蓬莱が、廓の主人から客に贈られる料理の台に変形され、川柳にも詠まれているのは何とも興味深い発展です。
そもそもが公家文化に発した造り花ですから、今や虫の息になろうと、残念ながらそこには必然性が認められてしまいます。雛人形の桜橘に名残を残すと言いながら、美感は言うまでもなく材料や製法からも、およそ有職造花の末裔とは認め難い物ばかりになって久しく、嶋台(シマダイ)や平薬(ヒラクス)などと有職造花の名称を名乗りながら、およそ資格を備えない物が横行するようになってしまいました。
ここでは、伝統的な有職造花の様々と、伝統を踏まえて創作した有職造花類を合わせてご覧頂き、有職造花とはどんなものであったか、また有職造花の新たな可能性を顧みる機会にもなれば光栄に思います。

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■ 有職造花の制作方法

有職造花は、写実に留まらない様式化に至るものでなければなりません。それは同時に、写実で再現出来る者だけに許されるもの…ということでもあるでしょう。造形である以上、伝統工芸のどんな分野であろうと、資質としてデッサン力が備わっているか、その訓練を重ねて形をそのまま写せる技術を身に付けている事が絶対不可欠なのです。
有職造花が飾り物であろうと、植物の成り立ちを踏まえる姿勢を決して崩さない、自然に対しての謙虚さを叩き込んで制作して行かなくてはなりません。
有職造花の場合、花びらをはじめ葉も蕾も、実際よりも丸みを帯びさせたデフォルメによって、より様式的な形体を目指さなければなりませんが、それはデフォ ルメの認識があって初めて成り立つことだということなのです。デフォルメは確実な写実を超えたところの到達点であるからです。

有職造花は、基本的に下の行程で出来上がります。

① そのまま、あるいは染色した絹(羽二重やサテンなど)に和紙を裏打ちしてから、花びらや葉の形に切り抜いたり、金型で抜く。

② 必要に応じて、予め相応しい太さの針金を貼り付け、その後に様々な種類の鏝を熱して一花、一葉ずつ鏝当てしては、花や葉、萼などの形を作る。また、葉脈が必要なものは筋鏝によって線を引く。

③梅や桜を代表的なものとして、蕊がある物は相応しい材料を工夫して蕊としてまとめ、日本画の岩絵の具などで花粉を施す。蕾は綿を絹で包んで萼に差し込んだりしますが、花の種類によってその製法も一定ではありません。

④ 出来上がったパーツを軸となる針金に接着剤でくっつけ合わせな がら、絹刺繍糸で巻いては一本の花や枝にまとめ上げる。

⑤ まとめあげたパーツは、自然木を組んで立木にしたものに挿したり、籐で作った輪や必要な形(六角や羽子板)の桐板に植え付けて、作品を構成してゆくのです。

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