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■ 近頃のこと

2025/02/28

独り言のような切ない話

有職造花は、御所を中心とした公家社会で発達した飾り物ですが、後年は豪商などの富裕層相手に商われて存続したのでしたから、そもそも庶民の環境に息づくには無理があったりするのです。

それを鼻にかけるわけでも、勿体振るわけでもないのですが、例えば平薬を一般家庭の居間に掛けたところで決して映えないように、どうしても飾る場所が選ばれざるを得ないのです。

更に、全て絹であることを始めとして、例えば五色紐とか、彩色に純金純銀の使用が必須であったり、仕入れ値や材料費は驚くほど高額になりますから、当然贅沢品の範疇である価格になりがちなのです。

とりわけ、薬玉や平薬に下げる五色紐といったら、一組に紫、白、赤、黄、緑、桃の6色各3mを特注しなければならず、その仕入れ値は一組30,000円を超すのに、注文は最低でも各9mからでなければならず、1組だけ仕入れるということが出来ません。

また、平薬など桐箱に入れての納品ですと、紐と箱の仕入れ値だけで、43,000円にもなってしまうのです。

このところ顕著に、問い合わせなど影を潜めて滅多になく、だからといって営業活動など真っ平ですから当たり前なのでしょうけれど、連日お茶を引いていたりするのは、やはり張り合いがありません。

ホームページを管理してくれる方が統計を取ってくれたのですが、昨年1年間の『お便りなど(お問い合わせページ)』に訪れたユーザーの数が213名ありながら、実際にお問い合わせ頂いたのは、僅かに20。しかも、全てが制作依頼だったわけではないのです。

やり取りをしないうちから、嫌われるという事もないでしょうから、よくよく問い合わせの送信である、最後の一押しを躊躇させる何かがあるのでしょう。

友人達は、あまりにも特殊な世界だし、どう見ても安くは見えないから、一度は問い合わせする気になったものの、とんでもない値段のものを買わなければならなくなってしまうのではないかとか、押し付けられたらどうしようとかの心配から、きっと送信の直前で引き返してしまうんだよとか言うのです。

なるほど、そうした先入観から逃れられないのが、そもそも有職造花の格式とか生立ちというもので、実際、問い合わせする勇気が出ないうち3年も過ぎてしまったとか、何人もに言われたのでした。

注文のやり取りを始めてからは、たいてい値段も含め、こうと知っていたら、もっと早くに問い合わせすれば良かったと、笑って話すようになるのが常ですから、やはり随分と残念に思うのです。

さて親切にも、統計を取ってくれたばかりか、生成AIなるものに、気楽な問い合わせに結びつける手段はないものかと相談してみてくれたのだそうで、すると次の短い一文を加えてみるのはどうかという提案があったそうです。

『お見積もりだけでもお気軽にご相談ください。
まずはお話をお聞かせください。
ご予算に応じてご提案も可能です。
どんなことでもお気軽にお問い合わせください。』

随分とへりくだったもので、これでは藁にもすがる思いで、涙ながらに、どうぞ注文しとくれやすと訴えているように聞こえてしまいましたから、ここまでして注文なんて欲しくないよと、折角の骨折りに申し訳ないとは思いながら、思わず笑ってしまったのでした。

私は有職造花を商うことで生活しているわけでも、しようとするわけでもありませんし、そもそも私のような制作は、採算を考えていては成り立たないでしょう。

だからこそこれからも、問い合わせの厚く高い壁を越えて来られた方々の懸念を払拭して余りあるように、流れ作業の量産品では決して叶えられない、私にしか出来ない一品物の提供で応えたいと願うのです。

その上で今、一つの問題を突きつけられているのです。

少しでも早く、出来上がったばかりの有職造花をお届けしたい気持ちと、値段を上げない手段から、花一輪とか銚子飾りとかの小さな有職造花は、化粧箱箱を誂えず、品物だけの納品にしているのですが、売り物である以上、それはおかしいのではないかとの指摘があったのです。

しかし、一品物であるほど、出来上がり寸法がまるで異なるため、箱を誂えるには、出来上がってからの採寸による特注を繰り返すしかなく、それが至極厄介で面倒な上に、箱代として何千円も価格に上乗せすることになってしまうのです。

さてどうしたものか、何もかも一人でしている私ですから、いっそ化粧箱の必要な有職造花の制作依頼は遠慮することにしようかと、少し切なく考え始めているのです。

五色紐

雛段

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