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■ 近頃のこと

2026/05/20

二つの茱萸嚢

どんな理由で人気があるのか、茱萸嚢(ぐみぶくろ)の制作依頼が多いのです。

多いといっても年に数度あるか無いかという程度なのですが、真の薬玉と茱萸嚢は、有職造花の歴史上、公家の年中行事上、極めて肝腎要の物です。

それでいながら、今や重陽節という菊の節供があることすら知られなくなって久しいのですから、茱萸嚢を知っているとか、ましてや個人で所有したいと言われる方々といったら、かなりマニアックには違いないでしょう。

茱萸嚢は、9月9日の重陽節に、端午の節会で下賜されてから、鴨居などに下げられていた真の薬玉と掛けかえる有職造花ですが、春のグミと、本来は白と黄の平菊のみによる飾りです。

重陽をモチーフにした小御所の襖絵もそうなのですが、何故菊が白と黄のみなのかは、色の格式の一位が白、二位が黄、三位が赤であるのを、色々と差し障りのある赤を省いた二位までにしたからだというのは、AIに質問しての受け売りなのですが、きっとその通りなのでしょう。

何れにせよ、本来真の薬玉と対になるものですから、真の薬玉を依頼された方の殆どは茱萸嚢も所望されます。

私の茱萸嚢も、平安時代にあるはずも無い玉菊ではなく、殆ど白と黄の平菊によるものばかりなのですが、もう十数年前に、別の目的で作った小菊が余ったのにふと思い付いて、小菊の茱萸嚢を作ってみたことがあったのです。

それをホームページでご覧になられた方から、小菊の茱萸嚢をと制作依頼が入ったのです。

小菊は色々な用途で日常的に作るのですが、近頃は花器に投げ入れるような設定にしろ、庭に咲く設定にしろ、陰陽五行の五色(紫、白、赤、緑、黄、桃色)という有職造花ならではの色を花と葉に当て、有職造花ならばこうなるというような、いわば様式の決定めいた構成をするようになっていました。

完成した陰陽五行の五色による茱萸嚢は、私としたら近年際立った仕上がりに思って、意気揚々としていたのですが、以前作った小菊の茱萸嚢は、淡い色調でしたから、それをご覧になってのリクエストである以上、陰陽五行がどうという以前に、要望を優先しそれを叶えることを第一にしなければならなかった事に気付いたのです。

それで、要望による淡い色彩の小菊でありながらも、アートフラワーとは一線を画した、有職造花としての威厳とか美感を備えた茱萸嚢を目指して作り直したのでした。

図らずも、こうして小菊による2種類の茱萸嚢が仕上がったのですが、ファジーな色彩の茱萸嚢は、一旦出来上がってからも、撮影してみて花数の混み入って見えるところに鋏を入れ、10花程を間引いては、よりスッキリさせて完成としました。

3月末頃からでしたか、有職造花のみならず、装束への絵付けや木彫彩色など、細かな制作に追い立てられるように明け暮れていたのですが、それをこなし終えてふと気づけば、5月も半ばになっているではありませんか。

つい先日ファンヒーターを片付けたばかりだというのに、あとひと月もすれば夏至なのですから、また日が短くなって行くと思えば、時の過ぎ行くあまりの速さに、ただただ唖然とさせられてしまいます。

すっかり夜が明けた朝5時の光に起き出してしまえば、先ずは猫とスズメにご飯をあげ、それから前日の制作を見返してひと作業。

朝ドラを見終えた8時過ぎからその日の制作が始まり、布団を干したり、猫とスズメの世話を挟んでは14時位まで作り続け、休憩に昼食を取ったり取らなかったり、猛暑に入れば行水が加わって、薄暗くなるまで作業台に向かうのが夏のルーティン。

こんな生活から仙人と言われることもありますが、仕事場が私の桃源郷なのですから、否定などいたしませんでし。

濃色小菊

薄色小菊

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