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■ 近頃のこと

2026/10/16

執念の女郎花作り

最初に女郎花(おみなえし)を作ったのは、もう30年も前、まだ有職造花を本格的に作り始めて間もない頃のことだったのです。

実際に御所に納められ、飾られたのかは疑問なものの、藤原定家の十二ヶ月の花の歌を元にした平薬図案を写したものが京都に残されていて、それは非常に興味深いものだったのです。

それで、当時は京都で存続されていた有職造花師に制作を依頼しようかとの話になったのですが、依頼を躊躇しているうちに、図案とはまるで違うものが作られたのを見て甚だ落胆し、ならばと写しに徹する自作に踏み出せざるを得なかったのでした。

女郎花は、7月の花として定家に詠まれたのですが、その図案はよほど急いで模写しなければならなかったのか、非常に大まかな拙いばかりのもので、女郎花の花などは、胡粉を丸めたような造花材料を束ねたに過ぎないように見えたため、写しに徹しようとする私は、臆することなく白い粒の造花材料を黄色に染め、図案通りの平薬に仕上げたのです。

しかし、女郎花はこんな花ではないと言われて、その通りなのでしたから、それから如何にして有職造花の様式を叶えながらリアルな女郎花が造れるかとの追求が始まったのでした。

女郎花が咲く季節になる度に、繰り返し繰り返しその形態やらを観察したのですが、大量の蕾は細かに分かれた枝の先に平面に付くとはいうものの、蕾は1㎜程度しかないのですし、絹糸を巻いた細い針金で、その大きさの蕾が付く茎を再現するなどそもそも不可能ですから、ならばと出来るだけ繊細な小枝を仕立て、その先端に岩絵具を付けて蕾に見立て、その上から黄色に染めた真綿かぶせてみたのです。

しかし、遠目には女郎花らしさは辛うじて叶ったものの、勿論粒々の蕾や花はまるで再現されません。

ならばと全く発想を変えて、私の平薬には木彫りの鳥や小動物を多用しているので、女郎花も絵画のように塊として捉えた木彫彩色の花を作って、針金の小枝に載せてみたのですが、これはまるで話になりませんでした。

次に目をつけたのが、黄色く染めたカスミソウのドライフラワーを見つけた時で、これには『でかした!』とばかり小躍りするほどだったので、直ぐ様以前真綿を被せた女郎花で作ってあった7月の平薬を、カスミソウの蕾を使った女郎花に植え直したのでした。

カスミソウのドライフラワーのことで、枝は極細で、粒々の蕾を黄色に染めれば、そのまま女郎花の蕾に見立てられるのですから、それで女郎花を大量に用意しなければならない七夕花扇とかにも嬉々として使ったのです。

ところが、カスミソウの茎など、所詮は枯れ枝の極細に過ぎませんから、輸送時の衝撃や、立てて飾り続けていると、自分の重さによって、括った針金の元から垂れ下がったり、果てには折れてしまうとか、出来上がりの状態が維持され難いのでした。

何よりも、女郎花の花の特徴として、花の上面が平らに近くならなければいけないのに、肝心なそれがカスミソウの蕾の塊では叶えられないという以前に、そもそも有職造花にドライフラワーを材料にするということ自体を認めきれなかった私は、ここまで試行錯誤を続けた上で、恐らく有職造花で女郎花が作られたことなどなかったのではないかと結論せざるを得なかったのでした。

それからまた数年を経て、秋の七草の一輪挿し依頼のため、ちょうど咲き始めていた藤袴を観察していると、紅白の粒にした造花材料を使えばそれらしく仕上がるだろうと思えば直ぐに作って、ちょっと気に入った出来上がりに気を良くした時、この方法ならば女郎花にも適用出来るだろうと、早速黄色い粒の造花材料を取り寄せたのです。

今はそんなものの方が売れるのでしょう、ネイルに使われるような趣味の悪いラメ入りがかった光沢のものしかなく、仕方なくそれを使って仕立ててみれば、どうやら女郎花の再現に最も近づいた気がしたのです。それで、完成させたのが、オリジナルの12ヵ月平薬の7月『女郎花に鵲』でした。

それでも、ただでさえヌメッとした女郎花の粒が、どうしても大粒に過ぎることが気に掛かって消えませんでしたから、同じ方法で今度は1㎜ほどの粒の造花材料を黄色に染めたので、再々々々々々度の女郎花制作に再挑戦したのです。

小さな花の塊を作っては、それをいくつかまとめて一花に仕立てるのですが、小さな花の塊を作るにしろ、細い針金の周りに1㎝ほどに切った10数本を束ねなければなりませんので、どうしても茎が太くならざるを得ないのです。

しかしそれはもう、物理的な限界として容赦してもらうしかないと開き直って、ともかくたかだか5花ばかりの小枝1本を完成させたのですが、それだけでも200粒以上の造花材料が必要だったのもあり、私には恐らくこれが気力も技術も限界で、枝ぶりも含めて、ここまで再現出来たことを満足に思えたのでした。

こうして思い返してみれば、この執念めいた女郎花の有職造花追求とはいえ、結局は一番最初に思いついて使った、胡粉を固めたような造花材料に戻っただけのことだったのです。

この後、どれだけ女郎花を作る機会があるやら分かりませんが、次に作る時には、蕾が弾けて開いた花の実感をもう少し与えるべく、束ねた造花材料を黄色に染める液に膠を混ぜ、それを塗るなり岩絵具を振りかけたら、もっと情緒ある女郎花に出来上がるのではないかとか、まだ頭の中で思い巡らせ始めているのです。

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