以前作った白孔雀と牡丹の平薬を引き取って下さった方から、孔雀と椿の平薬を作って欲しいと依頼があったのです。コレクションされている丸平雛立像の両脇に、孔雀の平薬を対にして飾りたいとのご希望でした。
白孔雀が思いの外きれいに出来たのに気をよくして、いつかは極彩色の孔雀を作りたくてはいたのです。勿論、今すぐになどと思っていなかったものの、何も作る物が思い浮かばない手持ち無沙汰のところに湧いて出た依頼だったので、ともかく孔雀の胴体だけは木彫り彩色してみようかと始たのです。
花鳥画に描かれた孔雀と実物の写真を元にして、写実に囚われない飾り物としての装飾性を重視し、紺青を基本にした彩色を目指したのですが、首の羽根の重なりがもたらす細かい繰り返し文様が説明的にならないように、描き込んだ文様の上から薄い群青を掛けたりしてあります。
私は鳥の顔を描くのが好きで、とりわけ目の縁取りが好きなのです。曲線で描かず、短い直線を所々に置くだけで丸い目を表してゆくというのは洋画の技法でしょうけれど、肝心なところだけを描いて全体の形を叶えてゆくという醍醐味でしょうか。
ともかく胴体を作り上げてしまえば、やはり羽根を付けたくなりました。見る角度によって、茶色にも金色にも様々な緑色にも見えるあの孔雀の羽根をどうやって染めるか、色々と頭の中でシミュレーションしてみて、やはり数種類の緑にしたのです。
何枚かの絹を薄い色から染め、染め上がる度に染料を加えて徐々に濃度も加えて行く方法を取ったりするのですが、絹の素材によっては後から入れた染料とで染め斑が出来てしまいます。深緑と赤みがかった茶色とが一枚の絹上に染め上がってしまったのを幸いに、孔雀の羽根の特徴として利用したのです。先端の丸い文様は、茶・水色・青・群青の4種類の絹を貼り合わせています。
孔雀の止まる岩は、貯まった木っ端を貼り合わせたものを削って作ってあります。どんなに小さな木っ端でもくちばしとかに利用できますから、ケチの権化のようですが、削りカス以外だと捨ててしまうことがあまりありません。
椿の作り置きがあったからでもあるのですが、作り始めてみたらとにかく面白くて、一週間もしないで出来上がってしまいました。そうなると気掛かりなのは、次の制作なのです。また手持ち無沙汰になるかと思うだけで憂鬱になってしまいます。
今朝の庭には、今年初めて何段もの霜柱が立ちました。キリッとした大気は心地よいばかり。雪深い温泉宿で有職造花や木彫りの制作をするという夢は今年も叶いませんが、待ちわびた冬を体中で愛おしんでいるのです。