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■ 近頃のこと

2025/07/25

鬼百合と猫の燈籠

白百合作りから始まり、どうにか山百合を有職造花として完成出来た直後、焼けるような真夏の庭の緑の中に、鬼百合がツンと出て、鮮やかな朱色の花弁を大きく丸めて咲いているのが目に入ったのです。

山百合の完成に気をよくしていたものですから、これも作れるのではないかと早速染めに掛かったのでしたが、山百合で何度も試行錯誤を繰り返したのが役に立って、さほど技術的な問題は感じなかったものの、出来上がってみれば、とりわけ丸まった花弁をはじめとして、鬼百合ならではというものが漂わないのです。

花弁30枚と葉を組み立てては解き、形の修正やら手直しをしてはまた組み立てるというやり直しを3、4回繰り返した後、何とかそれらしくなったように思えて、庭の実物を見据えてみれば、大きく丸まった花弁は、先端半分が思いの外細身で長いという、花弁縦横の比率に根本的な違いのあることに、やっと気付いたのです。

それまで小振りに仕上げた2本はそのままにして、始めからそうしていれば良かったものに、実物の花弁1枚をもぎ取ってきて、新たにその幅と長さの比率を出して更に、雄蕊雌蕊の描くゆったりとした曲線は、スラリと長い軸に要因があることも踏まえた上で、有職造花の鏝当てに付いて回る写実の限界を有職造花ならではの様式に替えて、どうにか完成に漕ぎ着けたのです。

白木を削り、紙ヤスリを掛けて作った蕾ですが、素地を生かしてほんの少しのピンクと黄緑をうっすらと塗るのに留めたのは、名前からしてきつい印象を与えがちなこの花に、一種の清涼剤のような役目を期待したのです。

話は変わりますが、女友達の家の猫が新盆なので、牡丹灯籠を作った...とは言っても、どうしたわけか頭の中は蓮の花だったものですから、それが蓮華燈籠だった事に、出来上がりを眺めて初めて気が付いたのでした。

保護猫だったマルコは、最初クリーム色に綺麗な焦げ茶色の毛で、宝石のような青い目をした、まるで人見知りをしない、何とも愛らしいシャム猫のようだったのが、どんどん焦げ茶色ばかり広がって、いつの間にやら絵に描かれた狸のようになったのです。

動物病院の待合室で一緒になった年配のご婦人が、しげしげとマルコを見ながら、『あら珍しい!子狸ですか?』と言ったのだそうで、親狸のような体型の女友達は、『あのババア』と憤慨しながら、笑うしかなかったそうです。

何でもずっと以前にも、亡くなった猫のために、私が牡丹灯籠を作ったのだそうで、その時は燈籠に下げる紙に、夏目漱石の『吾輩は猫である』初版本にあった、子供が猫の尻尾を持ってぶら下げている影が障子に映る挿絵を切り抜いたのが評判だったと言われて、そう言えばそんなことがあったと、ぼんやり思い出したのでした。

今回は、服を着させたマルコの後ろ姿の画像から、下半身だけ切り抜いて、足跡を添えてみたのですが、丸々とした下半身がマルコそのものだと、親狸の娘や姪からまでお礼のLINEが届きました。バカでも見る目があって幸いでした。

異常な暑さ続きに、1日3回も風呂に浸かりますが、その時間が一番幸せでいるのです。

手持ち鬼百合

鬼百合の花だけ

燈籠

下げ紙

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