ずっと前、小道具の箒を一本だけ作るために、藁の卓上箒を買ったのです。
ほんの一部だけ穂を切り取ったまま取っておいたのが出て来たのですが、束ねられた藁を広げてみたら、寒牡丹の霜除けやら雪除けやらに見えたものですから、これで寒牡丹の平薬が出来るだろうと思い付いたのです。
私は寒牡丹なるものを写真でしか見たことがありませんし、必ずしも好意的に捉えていた訳でもないのですが、座敷箒ファンの私は、無性にこの藁を生かしたくなってしまったのでした。
牡丹は作り慣れた花で、制作に問題もないとはいうものの、花弁を1枚づつ切り出し、それをまた1枚づつぼかし染めするのですが、1枚の花弁の白と薄紅なりの割合が、なかなか難しいのです。ぼかしは勿論自然の浸透任せなのですが、そのグラデーションの具合は、手腕で引き出すしかありません。
それはともかく、霜除けに覆われた寒牡丹は花一つ、蕾一つだけにするつもりでしたから、寒気まで表せるよう、より白が引き立つ上等の絹を使い、やはりほんの少し雪も積もらせることにもしたのです。
平薬の構成は重心の均衡が不可欠ですから、メインの飾りが片側に寄ってしまわざるを得ない構成だと、どうしても重心の釣り合いが取れません。
常套手段ではあるのですが、今回は白梅を数輪添えることにして、とても太い梅の幹を右下に据えて重心の均衡を図りました。
あっという間に出来上がってしまいましたが、パーツを最低限にしたのも生きて、寒気の中の穏やかな華やかさにまとまったように思います。
とうとう五色紐が一組になってしまいました。久しぶりに晴れ渡ったしおん咲く庭を眺めながら 、時折居眠りまで貪りつつ、編み始めたいと思います。