世紀の人形頭師だった12世面庄の頭(かしら)といったら、頭だけの時には本当になんて事無いように見えるものなのです。
それが、髪を着け、衣装を着けるという一行程ごとにどんどん美しく変身してゆくのですから、きっと12世面庄という方はそれを見越した制作の出来た、職人中の職人だったのでしょう。
先に紹介した『五節舞姫』にしようとしている頭は、丸平さんの蔵に90年も眠っていた神功皇后の頭なのですが、
仮に髪をつける型紙を付け、更に日陰の糸(蔓)を施しただけで、同じ頭がこんな風に変わるという実例をご覧にいれます。
12世面庄の代表作といったら、祇園祭で放下鉾に乗る実物大の稚児人形『三光丸』の頭でしょう。
昭和初年、丸平五世時代に作られた人形ですが、通常なら3000円は取ろうに、五世は僅か300円で請け負ったのだそうで、何故そんなに安く作るのかと聞いた六世に、『神さんのことやし、それでええんや。』と答えたそうです。
かつては丸平さんの職人三人によって、腰に着けた鞨鼓を打ち鳴らす仕草で練り歩かれたものでしたが、今でも祇園祭で見る事が出来ます。
生身の稚児よりもっと気高い姿と息吹を以て、鉾の行き先を凛として見据えるその姿といったら、紛れもなく人形芸術の極致ですから、それを見るためだけに祇園祭見物されても、決して損は無いかと思います。