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■ 近頃のこと

2014/07/28

切子燈籠つれづれ

切子(キリコ)と呼ばれる盆燈籠が、実は御所の掛け物に発していたと教えられた時には随分と驚いたのです。だからこそ『有職造花の技法を心得た貴方にこそ、切子燈籠を作り置く任務がある』などと言われればその気になって、今回有職造花をふんだんに取り入れた、工芸品としての切子燈籠を作るには作ったのですが...一対作る気力はとうとう起こりませんでした。
夏の軒先に、切子1つだけを下げている浮世絵が数多く見られる通り、本来一対に決まっているわけではなく、新盆の燈籠として盆棚に下げられる慣習になった地方の単位でしかないのでしょうけれど、実は私は、紙を主材料とした新盆用の切子燈籠を過去に10対以上作っているのです。
伯父の新盆に作った、本体が四尺もある巨大な切子燈籠は語り草にもなりましたが、それがあまりに不経済だった事もあり、以後は本体を三尺に決めて作っていました。それでも破格な規模なのです。
従妹の奥さんの新盆の際などは、2対4個を春夏秋冬に仕立て、火袋の中に桜、鉄線、紅葉、雪の積もった竹に雀を据え、取っ手の部分に絡める花では冬のに困った挙げ句、烏瓜を作って下げたのですから、発想自体をそれは楽しんで作れていたのです。今ではそんな頃が信じられないくらい昔の自分になり、およそ切子燈籠制作には興味を無くしてしまっているのです。
どうしたわけか人形愛好家の男性には、お盆を含めた葬祭習俗に興味を持つ方が多いようなのですが、かく言う私も、小学生の頃から墓で朽ち果ててゆく花輪だとか、仏送りの際に墓に幾つも下げられた盆提灯が直射日光で色褪せてゆく様や、雨に打たれて落ちた光景の得も言われぬ風情に目を奪われたり、同時に人の一生の悲哀とでも言うべきものを知る思いで、わざわざ遠回りをして眺めに行ったものなのです。言うまでもなく相当気持ち悪い子には違いないのですが、自分でもそれが分かっているから、言うなれば『禁じられた遊び』として、人目を憚る秘密裏にしたのです。
リムという名の見事に忠実な飼い犬の新盆に作った切子燈籠には、中学生の私が勝手な戒名を作って下げたものでしたけれど、『家守』という二字を入れた事は今でも覚えています。ですから、同類とでも言うべき者が地域を問わずに存在することを知った時といったら、大きな驚きと安堵とを同時に感じて、勝手に胸を撫で下ろしたものだったのです。
そんな紙主体の切子燈籠ですら、国立歴史民俗博物館の教授が葬送資料として欲しいからとわざわざ見に来られたのに、あまりに工芸的過ぎて民衆文化としての資料にはならないと持って帰らなかったことがあったのですが、今回の切子燈籠といったら、絹張りの本体四方を四季の有職造花で固め、秋の平薬丸々一つ分を火袋の中に移動させているなどあまりに破格で、そうした意味からだけでも、最後の切子燈籠制作として相応しい物になったのでは無いかと考えています。

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