藤原定家が詠んだ花の歌をモチーフとした、十二ヶ月の平薬図案を復元した物のうち、やはり華やかなせいなのか十月の菊平薬だけは時々注文があって、こればかり何度か制作しています。
菊花に抜く金型もあるのですが、それでするとどうも単調になるように思えて、この頃は全て手で刻んでいますから、鏝当てに辿り着くまでが容易ではありません。そのくせ菊の鏝当てに確かなものを得ているわけではないし、とりわけ八重菊となると花びらを増やすばかりでなく、幾重にも重ねなくてはなりませんから、手間ばかり増えるだけでどうも上手く出来ません。
平菊だと花芯も作らなければなりませんが、今回は向日葵を作った 時のように絹糸を束ねて貼り付け、後から刈り込む方法も用いています。贅沢なものですが、しかしこれも決定的な方法とは言えないようです。
そもそも造花を制作しない画家による図案というのは、一方的な絵画表現から成されたものだからこそ、たとえ絵空事であろうとも新しく発見出来る事があり、今回は右下から上昇させた菊の流れに目を見張ったのです。なるほどそうならば、円で構成されるからこその可能性を証明しているようで、とても興味深くているのです。
画像はほぼ出来上がった状態ですが、これに三つの薬玉が加えられて本当の完成です。出来上がりは『復元の有職造花』でご覧下さい。