依頼で桃太郎が背負う旗の先端に付く桃と、手に提げる吉備団子の袋を木彫り彩色していました。桃が高さ3cm、袋が高さ4.5cmという小さなものですが、人形用の小道具作りも私の大好きな仕事なのです。
桃も袋も、先ず木彫りしてから胡粉塗りし、それから彩色して仕上げるのです。彩色には岩絵の具を使って来たのですが、それは私が岩絵の具しか持っていなかったからという理由が殆どだったのです。
今度の制作でも、桃だけは肌触りの表現に岩絵の具でなければならず、3色を塗り重ねているのですが、泥絵の具(水干)は岩絵の具に較べて随分安価なこともあるのでしょう、こうした小道具の彩色といったら、伝統的に泥絵の具による事が殆どなのです。
泥絵の具は、溶いた時と乾燥した時の色に著しい違いがあったりしますので、慣れないとなかなか思い通りにはいきませんが、粒子が細かく不透明な絵の具のことですから、修正の上塗りをする時など実に便利なのです。
その上、言うなれば人肌のような温かさと、何とも穏やかで好ましい野暮ったさとでも言ったら良いでしょうか、泥絵の具による彩色での出来上がりには独特のムードが漂うのです。それはこうした小道具にはピッタリなのですから、泥絵の具を使うことはコストの面だけではない必然性があったのでしょう。それを実感してから、 私も泥絵の具を併用しての小道具制作に切り替えたのでした。
桃も吉備団子の袋も何度目かの制作なのですが、いつも吉備団子の袋に困っていました。どんな色にするか、どんな文様にするかが問題で、私はそういうのが直ぐに思い付かないほど、デザインや色彩に弱いのです。
以前は薄い金茶に松竹梅の文様を描いていたのですが、考えてみれば五月人形に松竹梅はそぐわないのではないかと、今回もまた思い悩んでいました。そんな時ふと、あれほど知れ渡った家来のいる桃太郎でありながら、一人きりで立つ五月人形なのですから、ならば袋に犬・猿・雉を描いてはと思い付いたのです。あたかも本狂い人形の刺繍のように、遊び心で描くのです。画像ではハッキリ見えませんが、顔と顔の合間に純金泥で波も描いてあります。鬼ヶ島への道中というわけです。これはなかなか面白く出来たように思います。また注文があっても、もう悩まなくて良いように思っています。
私は、仕丁の小道具類全て、兜の前立てなど様々作りましたが、五人囃子が提げる印籠の根付けとして作った犬筥は、全長僅かに7㎜というのもありました。もちろん木彫り彩色です。
平薬の鳥の木彫り彩色でも顕著なように、私が作る動物というのは、虎や鷹は言うに及ばす、龍や鳳凰すらがコミカルに可愛らしくなってしまうのです。今度の袋文様もまたしかり、犬などどう見ても鬼退治で活躍しそうには見えないし、ハムスターのようだと言われもしたのですが、朱色の絹房も付けて三匹が散らばっている袋を見ていると、これはこれで構わないだろうと実は一人でニンマリしているのです。