自分の家の庭に無かったことも大きな要因だったでしょうけれど、木蓮の花には小さな頃から憧れめいた想いがあったのです。
まだ十代の頃だったと思いますが、日展で望月春江という日本画家の木蓮の絵を目にした時、そうした想いが溢れ出したのを懐かしく思い出します。
表は赤紫でも裏は白に近い木蓮の種類が好きで、もう何年も前から木蓮を作りたくていながら、有職造花の裏というのは、殆ど裏打ちの和紙のままであるため、木蓮の花のような場合は、いかに花びらの裏を引き立てて見せられるかという問題があり、考えあぐねているうちに花が終わってしまうという繰り返しをしていたのです。
面白いもので、そんなことをしている内に、数年前からは花も終わりになる頃に芽吹く瑞々しい葉と、太めの小枝が見せる緩やかな曲線に惹かれてしまうようになったら、花びら制作に対する身構えのようなものが薄れてしまい、チャラっとしてそうした葉と花が揃う時期の木蓮制作に乗り出せたというわけなのです。
花びらの裏の問題は、先ず花びらを寸法で切り出し、その一枚一枚に極く細かい縮緬のような厚手の絹を貼り付けて、色のコントラストと質感を出したのです。
この平薬もまた野鳥とのコラボなのですが、以前からオナガという鳥がお気に入りで、『日本鳥類写生大図譜』に桃の花と組み合わせてあったため、木蓮の季節に違うことはないだろうと、先ずオナガの木彫り彩色から始めたのです。相当装飾的な仕上がりになりましたが、まだ50羽程しか作っていないでしょうけれど、鳥を彫るのも彩色するのも随分慣れたように思います。鳥の動作の愛らしさは、ほんの少しの首の角度による事が多く、このオナガもそうなのですが、先ず何の動作もない姿を木彫りしてしまい、その首を切り離してから角度を加減して接着し直す方法を取っているのです。これは微妙な動きを再現するのに、私にとっては最適な方法なのです。
出来上がりは『春の平薬』でご覧下さい。