いつの間に咲き始めたのか、裏の屋敷跡にある泰山木が幾つもの花を付けていました。既に茶色に変わり始めているものすらあったので、直ぐに画像に収めたのです。
大きな泰山木が年中葉を茂らせ、今の季節に大きな花を付ける景色は、私にとって物心ついた頃から身近にした風景だったのですから、それが明治になって到来した、北米を原産とした外来種だと知って、とても驚いたのです。
肉厚の花弁は香しく、光沢のある丸みを帯びた葉との組み合わせも見事で、自然の調和というものの完璧さには、つくづく感嘆させられてしまいます。
泰山木も、ずっと有職造花にしてみたかった花の一つでしたが、そもそも大木の高い位置に大きな花を咲かせるのですから、直径一尺の輪に収める事に躊躇を消せなかったのです。
しかし、昨年『蓮』の平薬を作ってみた時、実際にはとんでもなく大きな葉すら、決してこぢんまり見えてしまうわけでもなかったし、木彫り彩色が出来上がっているカワラヒワと合わせるのに、季節にも意欲にも泰山木が最も相応しく、一気に仕上げたのです。
葉は光沢の表現から絹サテンを使い、花は極々細かい縮緬のような厚手の絹を表裏に貼って花弁としたのですが、問題なのはやはり花の芯なのでした。
有職造花である以上、絹や紙によって作り上げる工夫が必要でしょうけれど、結局蕾同様木彫りにして、岩絵の具を置き上げるしかなかったのです。木蓮もそうなのですが、こうした花の芯にはつくづく悩まされてしまいます。
泰山木の花は、伸びた小枝の先端に付くのですが、それは蕾のうちから必ず真上を向いていて、花はそのまま空に向かって開くのです。
しかし平薬に仕立てるには、大きな木から手が届くような位置まで垂れ下がる枝を構図としたかったので、泰山木が大木であることと、花が頭上高くに咲くことを表すため、実際とは少し違うのですが、花も蕾も少し横向きにしたままにしてあるのです。
葉の間から飛び出したようにしたカワラヒワは、とりわけ難儀した彩色でも端的な表現に至らず、それでも羽根を彩る黄色が泰山木の葉色に映えたようです。
蝋梅、連翹、黄菖蒲、立葵、紫露草、蓮、向日葵、曼珠沙華などなど、有職造花にしてみたかった花々を一つ一つ何とか実現して来たのですが、挑戦が終わればまたスタートラインに戻って、さて次は何に挑もうかと、また季節に添った想いを巡らし始めるのです。