前に官女の小道具として作った五節句飾りのうち、七夕に相応しい有職飾りとしてこれ以上のものは無いのだろう『七夕花扇』ではあっても、人形に持たせるなどとんでもない、前に置くにしろ些か大き過ぎたのです。
そもそも実物は三尺三寸(約1m)もある七夕花扇ですから、尺三寸の官女を140cmの身長と見立てた縮尺寸法ですら、29cmにもなるのです。
作り直すには手間が掛かり過ぎる、何よりも今は作りたくないなどという思いから、それに代わるものをと探して辿り着いたのは、またしても中島来章の描いた『五節句図』にある『梶の葉と鞠』でした。
七夕に行われる蹴鞠では、先ず梶の枝につけた鞠と種々の供物を二星に捧げた後、鞠だけを庭に持ち出して蹴鞠を始めたのだそうで、真夏の盛りに狩衣を着るだけでも拷問だろうに、よりにもよって炎天下で蹴鞠をしようだなんて、この年中行事のどこに季節の必然性があるのだろうと思ってしまいます。
しかし、その図だけ見れば随分と清々しいもので、それを持たせる官女も秘色という渋い水色の袿を着ていることから、梶の葉を青緑の絹にしてみたのです。飾り物という以前に官女の小道具のことなのですから、縮尺だと直径5cmになる蹴鞠も、白絹に綿を詰めただけのものです。
葉の大きさも形も中島来章の絵によりますから、実物とは違うでしょうけれど、何もかも暑苦しくなるのを避けて、スッキリとした出来上がりを心掛けてみれば、これは結構お気に入りになったのです。
しかし、相変わらず上巳の飾りはまるで思い付きません。頼みの綱の中島来章ですが、上巳は『曲水の宴』の風景で参考にはなりません。
犬筥とか這子とか色々考えてみたのですが、私が作るのですから出来るだけ有職造花の範疇でのものを誂えたくているのです。