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■ 近頃のこと

2015/08/10

晩夏の桃色芙蓉

様々な芙蓉がある中で、私は九月に入ってからも咲き続ける桃色の芙蓉が好きなのです。
未だ残暑の厳しさにあろうとも、冷たいコバルト色を含ませ始める晩夏独特の空にこそ殊更映えるその花の色もそうですが、穏やかにくすんだ黄緑色の葉にも惹かれ続けて来たのです。そして、何が特別というわけでもないこの花もまた、有職造花に仕上げてみたい気持ちを募らせながら、何だか制作に至れないままでいたものなのでした。
なぜだか一昨年から、それまで作りたいと思いながら作れないでいた花々を矢継ぎ早に仕上げられて来ているのですが、自画自賛でも何でも、その何れも随分出来が良いように思うのです。今年は更に復元出来ないでいた『女郎花と鵲』の平薬まで完成出来てしまったのは先に書いた通りですが、その後しばらく依頼されていた人形の小道具やらを作っていたものの、その手が空くなり一気になだれ込んだのが桃色芙蓉の制作でした。
早朝から葉色に絹を染めて裏打ちし、20個の蕾を木彫り彩色してから鏝当てした萼を貼り付け、慎重に薄桃色に花びらを染めてしまうまで2日も掛からなかったなど、自分ながら手際の良い事でしたが、スルスルとそうした作業や構成が出来ているのは、制作に至るまでの月日が長かった事によるのではないかと思うのです。
随分前のことになりましたが、2年間ほんの一枝すら作れなかったスランプの後、突然出来上がってしまった大きな桜の立ち木など、苦しかったスランプの間に繰り返していた花の観察や、有職造花そのものへの認識を新たにしたことが役立って思えたのです。毎日をぼんやり過ごしていて進展など望めないということなのでしょうけれど、それはきっと人生の基本なのです。
平薬は左右の重さにバランスが取れないと傾いてしまいますが、厄介なもので構成というのは左右がアンバランスな方が面白かったりするのです。この平薬も花の配分が右に片寄っていますから、そのままでは安定してくれません。ちょうど都合の良い場所に大きな蕾がありましたので、実はその蕾の中に絹に包んだ小石を貼り付けてあるのです。結構油断も隙もありません。

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