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■ 近頃のこと

2015/08/25

眉毛美人

尺三寸の五人官女のうち、五節句の上巳と端午に当てはめた二人の頭(かしら)は、丸平さんに残されていた、雑然と雛頭などを入れてあった幾つかの頭箱の中で、長い間眠っていたものでした。恐らく明治時代に十一世面庄の工房で制作されたものでしょうから、先ず風貌が時代がかっているのです。今となってはとりわけ山なりの眉が異質で、どことなく老けて見えてしまうのです。女雛として使うのならともかく、ましてや未婚の象徴である濃色の袴を身に付けた官女には、どうしても不似合いなものがあったのです。
何せ古い頭ですから、それだけで京都の雛頭師の記録として意味があるのでしょうけれど、そもそも十二世面庄作の頭のような、額から頭頂に至る境界をすら明確に示す、活き人形(いきにんぎょう)を作れる技量で人間の造形を踏まえた頭ではないのです。そんな、特に優れた仕事とも思えない理由から眉を描き直す誘惑に抗えず、先ず端午の官女の眉を描き直してみたのですが、画像で見て頂けるように、これが同じ頭だろうかと思われるほど、まるで別物のように生まれ変わったのです。
それでも、もう一つの頭まで眉の描き直しをして良いものか躊躇って、友人の人形研究家に意見を求めてみたら、これだけ美人に変わったのは、それまでの眉が如何にダメだったかを証明するだけだなどと描き直しを絶賛されたので、その勢いに苦笑してしまいながらも背中を押された気になって、思いきったというわけなのです。全く、眉一つでこんなにも変わるのですから、女性の眉にはくれぐれも騙されないようにしないと...だなんて、二人で笑ったのです。
画像は、緋毛氈をバックにしたものがオリジナル、その右が描き替えたものです。

ずっと制作の手が疼いたままで止まらず、ノアザミの平薬を作っている最中から、次は何を作ろうかと考えている有様だったのです。そんな時、何か話をしていてふいに梟(フクロウ)を彫ってみたくなったのです。いつの間にか、繁った栗の葉の中に瑞々しい青栗が現れ始めていたのに惹かれて、その黄緑のイガイガを作りたくなってもいたところでしたから、それに梟を組み合わせたら面白い平薬になるのではないかとか、頭の中ではその構成まで半ば完成出来ているのです。
ま、本当の完成品はといったら、いつものようにきっと違うものになるのでしょうし、気が変わって別の制作に向かってしまうのかもしれませんけれど。

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