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■ 近頃のこと

2015/10/19

秋たけなわの平薬-事の成り行き顛末-

秋という季節はよくよく性に合わないのでしょう、未だ夏の余韻が濃く虫の音が野に溢れている初秋には、柿とか葛花の平薬などとても面白く作れて満足も出来ていたのですが、庭に虫の声も絶えて『秋たけなわ』と変わったら、今ならではの景物から作りたい物などまるで浮かばないのです。頼みの綱の酒井抱一の絵を当たっても、多くが女郎花や桔梗といった初秋の花々と組み合わされたものですし、何しろ菊だけとか紅葉だけとかの平薬など、昔よく作っていた分だけ今は作りたくもないのですからどうにもなりません。しかし、『事の成り行き』というのは重宝なもので、その思いがけない展開は自分のことながら呑気な無責任さで面白く眺められてしまうものです。
抱一の絵を当たっているうち、御物十二ヶ月花鳥図の二月にある『桜花雉子図』という軸に目を留めたのです。太い山桜の枝に止まった雉が花を見下ろしているといった構図なのですが、垂れさせた山桜の枝などそのままで平薬になるほどの形と配置なのです。しかし、そもそも『秋たけなわ』の平薬を作ろうとしてヒントを探していたのですし、だいたい雉と桜の平薬なら『書院懸物図』の図案を既に復元しているのです。野鳥の木彫り彩色なら、参考にして来た『原色精密日本鳥類写生図譜』にあるヤマドリにこの頃ずっと惹かれていたものですから、ならば雉をヤマドリに替えてしまえば良いと思い付いたのです。そうなると『秋たけなわ』の平薬のことなどさっさとどうでも良くなって、早速ヤマドリの木彫り彩色制作に入ったのでした。
そうして仕上げたヤマドリを枝に留まらせてみて、体の向きやら角度やらを調整したり、微妙に重心を加減したりしている最中、突然閃いたのです。ああ、抱一が垂れさせた山桜の枝を、私が垂れた紅葉の枝に替えてしまえば『秋たけなわ』の平薬になるだろう...とです。幸い紅葉ならばパーツの作り置きがまだ幾らも残っていますから、新しく作る手間も要らないのです。こうなると、もう抱一の原画も何もあったものではないのですが、そもそもヒントを探していただけなのだから構うこたぁないやと気楽なもんです。何せそんなわけですから、出来上がったからと油断は出来ないものの、思いがけなかろうが何だろうが、結局『秋たけなわ』の平薬に辿り着いてしまったというわけなのです。
とにもかくにも『事の成り行き』というのは誠に有難いものだと、それも創造する者だけが知る醍醐味って類なんだろうなぁ...などと分かったような屁理屈に一人で頷きながら、実のところ出来上がった『山鳥と紅葉』には、とても満足しているのです。

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