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■ 近頃のこと

2015/11/20

昆虫いろいろ-平薬の添え物-

昆虫を平薬に取り入れたのは『山吹』が最初だったでしょうか、テングチョウというのを山吹の上に飛ばしたのです。平薬に添える野鳥の木彫り彩色で参考にする『原色精密日本鳥類写生大図譜』で、ノゴマという野鳥と一緒に描かれていたためそのまま使ったものですから、それがテングチョウという名前であることは、その後ノウゼンカズラ(凌霄花)の平薬制作の時に、どうしても飛ばせたくなったキアゲハ作りに『検索図鑑日本の蝶』という本を調べるうち、そういえばと図鑑をめくって初めて知ったのです。
何しろ鳥の制作と違って、本体など厚手の紙と、胴体にするほんの僅かな木材のみで出来てしまいますし、苦手な彩色もステンドグラスを模写するような感じで済んだりしますから、随分楽なのです。その後もアオスジアゲハやモンシロチョウ、キチョウといった蝶を作っては平薬に飛ばせていたのですが、秋に入ってからは、羽根作りの興味から赤トンボも作っていたのです。羽根は極細の針金でアウトラインを作り、その両面に薄絹を貼ったものですから、重ねた絹ならでこその文様が浮き出てなかなか面白いのです。もっとも、それを使うことなくいるうちに『月に葛花』という平薬でカマキリを作ることになり、その成功は、平薬に木彫り彩色の鳥を添えたものこそ私の平薬というものではないかと考え始めていたところに、昆虫でもしかりと思わせるのに充分だったのです。もちろん『御簾に小菊』とか『山茶花』のように、まるで添え物を必要としない平薬もあるのですが、『立葵』にはクロアゲハを、本来酒井抱一の原画に蟷螂が描かれているのだから『向日葵と朝顔』には蟷螂をと、過去に作った平薬にも昆虫を添えたくなって作り始めたのが、画像のものなのです。
2回目の挑戦となったカマキリは、足の芯にもっと細い針金を用いて関節を強調するとか、最初の制作で課題となっていたところを改善しながら、背中の羽根の下にある薄いパラフィン紙のような羽根を、あえて削いだ木にするなど凝ったのですが、カマキリというのは非常に分かりやすい構造でありながら、その造形は不思議な魅力に溢れ、彩色の興味も尽きないのです。
これから『遅春』『水際』『草むらに咲く』『合歓の花』『蓮』『曼珠沙華』などにも蝶やトンボを添えたいと思ってはいるのですが、何せ気紛れな発想と制作のことですから、さて何時何が加えられることになるやら...自分でも楽しみにしているのです。

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