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■ 近頃のこと

2016/03/15

復古大和絵に描かれた薬玉の復元

古本のカタログに浮田一という画家が描いた薬玉の掛け軸がありました。真の薬玉に属するものなのでしょうけれど、初めて見る形体のそれが中々面白く出来ていたのです。早速五月人形の専門家である友人に写メしてみると、復古大和絵という分野の絵なのだそうで、実際にこんな薬玉が実在したのかどうかは不明ながら、主に尾張方面の画家がそうした薬玉の図を描いているのだそうです。さすがに詳しいものです。
構成は紅白の皐月2本とヨモギ、そして根引きの菖蒲だけですから、研究家は『本来の薬玉とはこうしたものだったのではないか思うのだけれど、どうでしょう。』と問われるのですが、こちらといえば、パーツの数も少ないしこれなら復元も容易そうだと思うばかりでいたのでした。
結構厄介だった冠制作を終えての手持ち無沙汰を早くも持て余し始めていて、時期的にも端午の節句用の有職造花を作る欲求が起こっていたことから、ふと思い立つなり取り掛かったのがこの復元なのです。重心の偏った皐月の枝をサラリと端正に組み合わせた絵空事の壁が思いの外高かったものの、うまくしたもので図案の菖蒲が根引きにされていましたから、ならばその部分を木彫り彩色にして、皐月やヨモギを結わえ付ければ良いと気付かされるのに時間は要らなかったのです。とはいえ菖蒲の茎の彩色はなかなか思い通りにならず、皐月の枝の括り付けも容易には出来なかったのですが、絵と同じく薄い水色の細長い葉に仕立てたヨモギと共に、先ずは針金で固定してから五色糸で結んで、ともかく完成させることが出来たのでした。
さてこの薬玉、最も絵空事なのは五色糸なのではないかと考えています。根元で結わえた五色糸の輪と糸の端を皐月の上に絡ませてあるのですが、それでいながら中央にも五色糸が12本下げられています。以前復元した『古今要覧』にある薬玉もそうなのですが、別に誂えた五色糸を髢(かもじ)のように付け足さなくては構造上叶えられないのです。1本の長さが30尺と決まっている五色糸ですから、とても高価な故に切断には慎重な計画が必要不可欠となり、今回こそちょうど半端に残された五色糸があって使えたから良いものの、それがなかったらこの復元は、経済的に大きな犠牲を払わなければ出来ないことになってしまうのです。実物を見たこともない絵師によって、確かでもない記憶での伝達ででも描かれたためか、絵空事にならざるを得なかったろう薬玉図が多く、その復元には往々にしてそうした現実的な障害が立ちはだかってしまうのです。ともあれ完成出来た薬玉は、結構原画の趣が再現されているように思えます。それが身贔屓であろうとも、そんな風に感じられる瞬間こそが復元の醍醐味で、ならばこそ性懲りもなく立ち向かってしまうのかもしれません。

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