大きな藤棚の制作依頼があったのですが、ただでさえ工程に難儀な藤のことながら、藤の立木というのは作ったことがありませんでしたし、興味が勝って引き受けたのです。
いつもの事ながら、最も厄介な問題は遠方に送る箱の用意なのでしたが、ちょうど京都から届いた荷物の箱が500×500×850㎜という大きなものでしたので、その箱を立てて縦長の空間に合わせた藤棚を作ることにしたのです。最初は、藤棚の下から幹が伸び、その先端から幾本もの蔓が棚上に這うという設定でいたのですが、 先ず梅の古木を利用して藤棚に届く程の幹を設定してみると、そもそも極端な比率の縦長空間なのですから、わざわざ棚など設置しなくても、十分に垂れ咲く山藤の美しさと蔓の曲線の妙味を引き出せる事に気付き、棚など不要と省いてしまったのです。
山藤というのは、葉の塊が枝の諸処に付いて下がるのですが、その塊には思いがけないほどの葉数が必要で、最初520枚ほど用意した藤の葉など、たかだか4本の蔓を作るので無くなってしまったのです。仕方なくまた680枚程を作り足して植え付けてみると、今度は11本用意してあった青藤の花房だけでは物足らないように思えましたので、色の対比から新たに白藤を8本誂えて下げ加えることにしたのです。全ての花房は蔓に固定せず、花の垂れる位置に針金の輪を付けてから花房の針金を通し、風や振動で容易に揺れるようにしてあります。
瑞々しく明るい黄緑に群れる藤の葉は、恰も薫風を招き入れるように輝かしく爽やかで、葉の塊からつーっと伸びる蔓は、踊るような曲線で空間に這い出しているのです。そこに自由な遊び心を入れ込むのも勝手。なるがまま、何とも楽しんで構成出来たのです。
立木の土台には、季節柄綿毛になったタンポポでも生やしてみようかと考えていたのですが、思いの外端正にスッキリとまとまった藤の立木でしたから、根元に何を置いても邪魔なだけ。何も植えたりせず、岩絵の具で深まり行く野の緑に塗るだけにしようかと考えています。