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■ 近頃のこと

2016/06/28

若鮎と流水

白絹スガ糸一束を壁からぶら下げたままにしてあったのですが、毎日目にしているうち、それが飛沫散る瀧の白糸のように見え始めたものですから、束のままの白絹を流水に見立て、魚が遡る様の平薬でも出来ないかと思い付いたのです。
しかし、白絹スガ糸といったらバラけるやら絡まるやら、一旦束が乱れると決して元通りになってくれませんから、やはり移動やら保管やらが基本の平薬には無理だと諦めかけていたところ、ならばそのまま横たえた上に木彫り彩色の若鮎を配したなら、今の時期ならばこその料理屋さんの平飾りになるだろうと思い立ち、直ぐに若鮎の木彫り彩色に掛かったのでした。
彩色には、日本画家の福田平八郎さんが鮎を何点も描かれていたのを思い出し、ポーズも色も1971年に発表された『若鮎』という最晩年の作品を参考にさせて貰ったのです。苦手にしていた彩色でしたが、この頃は結構楽しんで出来ています。もちろん積極的に彩色に向かえるというのではありません。岩絵の具の扱い方が手に入って来たという理由もあるのでしょうけれど、写実的な雛形を作るわけではないのだし、実物と日本画に随分な違いがあるように、ちょうど日本画に描かれた生き物をそのまま立体化するようなつもりで彩色し始めたら、何だか面白くなってしまったのです。名作に便乗したりするわけですから気楽なものです。
若鮎というには若干逞しい体躯に出来上がってしまいましたが、白塗りの三宝を土台として流した白絹に若鮎を配置してみれば、なかなか涼しげな光景になりましたから、私のインスピレーションも捨てたものではないとばかりに、しばし脳天気にご満悦でいたのです。

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