私のとても親しい友人が、チェコの友だちの結婚式に呼ばれて行くことになった時、お祝いに平薬をプレゼントしたいと言われて作ったのが、直径20cmの桜の平薬でした。やはり日本ならではの花の方が良いだろうというので桜にしたのです。何しろ、見たこともない花が、見たこともない御簾と組み合わされている極東の国の飾り物なのですから、きっと何もかもが珍しかったでしょうけれど、とても喜んでくれたのだそうです。
その後二人は新婚旅行の地に日本を選ばれて来日され、1ヶ月近くも日本各地を廻られたのですが、帰国の直前に私の仕事場に寄ってくれたのです。何だか眩しいほど美しく誠実そうなカップルだったのですが、その時折角だからと自分のために作ってあったミニ版『流水桜橘』の平薬を貰って頂いたのでした。
帰国後しばらくした頃、チェコから突然小包が届いたのです。御菓子の箱の他に、純白の綿で慎重に包まれたものが2つ入っていて、解いてみればチェコの酒とボヘミアンガラスだったのです。
初めて見るボヘミアンガラスは、きっとチェコの伝統工芸なのでしょうけれど、江戸切り子のように手の込んだカットが表面に鋭く施されていて、その透明な輝きは知的でシャープな直線を際立たせながら、しかし決して冷たいわけではなく、気取り過ぎてもいないのです。それをとても好ましく見るなり、これは夏の有職飾りに使えると思ったのです。例えば朝顔など夏の花とコラボさせたら、きっと品格ある涼しさを表現出来るだろうと瞬時に思い付いたのです。
その通りでした。
常の通りに作った淡い紫の朝顔をボヘミアンガラスに添えただけなのですが、公家文化の儀式や慣習上に咲いた有職造花が、随分と洒落てスタイリッシュに見えるのは、紛れもなくボヘミアンガラスの力というべきものでしょう。東西の伝統工芸が違和感なく融合したようにも思います。
ボヘミアンガラスの横に置くには、緑の葡萄の一房でもきっと相応しいことでしょう。そう...まるでカラヴァッジョの模写でもあるかのような葡萄を、平薬で使うように作って置くのです。その上で、ボヘミアンガラスの縁に小鳥を一羽留まらせるというのはどうでしょう。宝石のように輝く葡萄を品定めするように覗かせるのです。ギリシアの時代、絵描きの腕くらべで描かれた葡萄を小鳥が飛んできて啄(ついば)んだという逸話のようになったなら、どんなにか麗しく嬉しいことでしょうに。