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■ 近頃のこと

2016/11/07

冬への憧憬-雪の平薬-

数年前から冬に惹かれ続けているのです。早起きしての掃除の時から、キリッと引き締まった大気に毎朝背筋を正されるよう思いますし、掃除を終えた三間続きの和室を見通すと、その様といったら他の季節では見られないような整然さに感じられるのです。
外出は、薄着の首筋をカシミヤのマフラーでキッチリと巻き、これもカシミヤのオーバーは襟を立て、首までしっかりボタン締めた出で立ち。それで凍てついた道を歩くのが好きなのです。売れ残りを半値で買ったオーバーに貰い物のマフラーだというのに、薄着で軽快に冬を過ごすには、やはりカシミヤに限るだなんて嘯(うそぶ)きながら、温かい身体に顔だけキリリと引き締まった冷気を過ごすのが心地よいのです。空の透明さも格別ですから、精神的にも癒されて思えます。
かく言う私ながら、十年ほど前までの凡そ20年間、沖縄の離島を第二の故郷のように親しみ、一日中を炎天下の海に過ごしていたのです。一年中が真夏だったら良いのにとか本気で思っていた頃すらもありましたし、開場と同時に入る市営プールでは8000mとか泳いでいたのですが、今や夏なんて土用の3日もあれば十分だなどと、湿度には暑さより何倍もうんざりした顔で忌々しく毒突いているのですから、人間とは本当に勝手なものです。床下まで換気扇を廻しているというのに、畳までじっとりとして全てが黴びてしまうような湿度の高い梅雨時は、コレクションの管理から日常からほとほと手を焼いて、しかもそんな気候は近年どんどん長引いて来ているのがいよいよ不気味でもあるしと、冬に魅せられてしまったのには、そうした反動もあるのでしょう。
さて、11月という月は、夕暮れなど釣瓶落としを顕著にするばかり、同時に寒さも急速に加わりながら、それでも楓は青々としたままで紅葉にはまだまだ早かったり、いったい秋やら冬やら季節の区別はいよいよ曖昧になるのです。ここで散々愚痴って来たように、私と秋という季節はとても相性が悪いままですから、気温も中途半端で着るものにも困るこんな季節はさっさと過ぎてしまって、早く心置きなくオーバーを着られる季節になってくれないものかと、西行の感慨など仇のように、佗しいばかりの夕暮れなんてどうでも良いと、初霜の朝を心待ちにするのが例年となりました。
先日『春は名のみの』という平薬で雪の光景を作ったばかりなのですが、冬に馳せる思いは溢れるばかり。また雪のある光景を作りたくてならず、菱田春草の屏風絵からヒントを得て、まだ色の残る雑木の葉に、思いがけないほどの初雪が積もったというの光景を思い付きました。いつも通り野鳥との組み合わせですが、今回飛来したのは山雀(ヤマガラ)です。
こうして書いているうちに朝の気温はどんどん下がって来ました。寒い朝の布団はただでさえ心地よく離れがたいものですが、潜り込んできた愛猫が胸を踏み足するのが嬉しくて、ついついいつまでも布団に留まってしまうのです。

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