何かを作りたい手が疼きながら、何も思い浮かばない手持ち無沙汰な時間を持て余すと、ともかく『原色精密日本鳥類写生大図譜』を開いて、そこに載っている野鳥から興味惹かれるものを探してみるのです。そして、何に使うという目的も無しに木彫り彩色したりするのですが、サンコウチョウもその一つとして作り置かれていたものでした。鳥打ち帽を被った様な飾り羽根の頭に、尾は胴体の3倍もあるという珍しい姿の野鳥なのですが、その図譜でサンコウチョウを止まらせていたのは、箱根空木(ハコネウツギ)という花の枝なのです。躑躅(ツツジ)のような薄紅色の花で、その絵は一際美しく描かれていましたから、以前から何度も眺めていました。
ここ十数年ほど、私の平薬には極端なほど躑躅を扱ったものがありません。決して躑躅自体が嫌いなわけではなく、幼少時の庭にあったサーモンピンクの躑躅など、それが枯れてしまったことを未だに惜しんでいるのです。鬱蒼たる緑の山中に、様々な色彩を点々と見せてくれる山躑躅の美しさには、枝振りや葉の付き方にまで魅せられてしまうのですが、それでいて躑躅制作に二の足を踏み続けて来たのは、5枚の花弁をくっつけた形で出来た金型で抜いたものだと、どうしても鏝当てが中途半端にしか出来ず、作っていて情けなくなってしまうからなのです。
『真の薬玉』で使われる花は、極めて様式的ではありますが躑躅(皐月)なのです。もちろん大きさの問題もあるのですが、抜き型は一枚の花弁に糊代の付いた形です。それで抜いたものに1枚ずつ鏝当てしてから5枚貼り合わせて一花を作るのですが、そうしないと真の薬玉の生命であるスッキリとした鏝当ては決して叶わないのです。
今回の箱根空木は、花弁の1枚が巾8㎜長さ22㎜という小さな花ですから、躑躅の抜き型を使ってしまえば楽なのでしょうけれど、それでは鏝当てにまた落胆するだけですから、敢えて1枚の花弁の型紙を作って鋏で切り出し、その左右に鏝当てしてから、真の薬玉を作るように貼り合わせて一花としたのです。やはりそれが功を奏しました。
さてさて、パステルカラー風の花に日本画の鳥。それが良いやら悪いやら、実は私...両方とも本物を見たことがないのです。