早春と春とを分けて、五つの季節に咲く花々を有職造花に仕立てて来ましたが、数え上げてみると104種類ありました。
◎早春:梅(白梅・紅梅・桃梅),オオイヌのフグリ,こぶし,スミレ,タンポポ,椿,春の七草(セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ),福寿草,桃花,八重椿,連翹,蝋梅,若松,
◎春:青楓,大手鞠,桜(染井吉野・山桜・垂れ桜),黄菖蒲,グミ,桜桃,皐月,菖蒲,橘,タンポポの綿毛,ツツジ,鉄線,箱根空木,ヒメジョオン,蕗の葉,藤,牡丹,木蓮,柳,山吹,ヨモギ,レンゲ,
◎夏:青柿,青桃,朝顔,葦,紫陽花,卯の花,女郎花,澤潟,梶の葉,キスゲ,桐,河骨,百日紅,白百合,睡蓮,ススキ,泰山木,立葵,蔦,露草,常夏,ねむの花,野アザミ,ノウゼンカズラ,萩,蓮,向日葵,昼顔,ブタナ,芙蓉(白・桃),紅葉,野草の穂,ヤブカンゾウ,
◎秋:イチョウ、桔梗,菊(玉菊・平菊・八重菊) ,葛,ザクロ,萩,朴,曼珠沙華,紅葉,
◎冬:ガマの穂,枯れススキ,枯れ蓮,山茶花,水仙,ツワブキ,南天,枇杷,枯れ葦の穂,
◎その他:海草,笹,竹,松,(以上、104種)
こうしてどのくらいを作った頃だったか、決して自惚れたわけではないのですが、私が作ったならばどんな花でも有職造花と呼べる物になるだろうし、勿論造形的に絶対作り得ない花や、作っても仕方ないという花もあるのですが、たぶん私にはたいていの花は作れてしまうだろうと思ったのです。
以前にも書いたのですが、有職造花の鏝当ての種類というのはそれほど多様にあるわけではなく、昭和初期雲上流の優れた有職造花を見ても結構自由に鏝を選んで当てているのです。それは結局、制作に当たる者の機転による選択と応用というべきもので、自ずからそこに個人の資質とセンスが滲み出て見えるのです。ここはこの鏝でなければならないとしてきたものではなく、自由な発想で臨んで良しとしたのが本来で、常に新たな工夫を推奨して来たのだろうとも見て取れるのです。
木彫り彩色を何とかこなせる私は、数年前から有職造花と鳥や昆虫を組み合わせたオリジナルの平薬を作っていますが、それは別に奇をてらったわけでは更々なく、そもそも有職造花に動物が組み合わされるのは伝統的な範疇なのです。奈良蓬莱や嶋台に鶴亀は欠かせませんし、伊勢海老や鴨と紅梅白梅と組み合わせた婚礼用具もあります。立体的に仕立てた平薬に鳥を留まらせた風鈴などというのは、野に下った有職造花が飾り物として完成された好例だろうと考えているのです。
有職造花と組み合わせた木彫り彩色では、鳥が35種と最も多く、昆虫、魚、黒猫まで作っています。
◎鳥:アオバズク,鵜,鶯,ウソ,オオルリ,鴛鴦,オナガ,カササギ,烏,雁,カワセミ,カワラヒワ,雉,キビタキ,黄連雀,孔雀,サンコウチョウ,白鷺,白孔雀,千鳥,チャボ,ツバメ,鶴,ノゴマ,鳩,雲雀,ヒヨドリ,頬白,時鳥,水鶏,メジロ,百舌鳥,ヤマガラ,山鳥,ヤマムスメ,
◎昆虫:赤トンボ,アゲハ類,ウマオイ,カマキリ,黄蝶,水トンボ,紋白蝶,
◎動物:鮎,亀,猫,鯉,小魚,
◎人間:浦島太郎,菊慈童,孟宗,
こうしてふと足を止めて制作を振り返りながら、これからどんな制作の道を歩んだら良いのかと自分に問い掛けると、桜橘、真行草の薬玉、嶋台といった伝統的な有職造花とオリジナルを並行制作する必要を思うのです。ビルギット・ニルソンというワーグナーやトゥーランドットを得意にした超ドラマチックソプラノが、ブリュンヒルデなどの重い役を歌った後、楽屋で夜の女王のアリアを歌って声帯の柔軟性を図っていたとの話を聞いたことかありますが、オリジナルばかりといった偏りがないような並行制作こそ、伝統を旨とする有職造花制作を続けるには、技術的にも精神的にも絶対的に必要なのだと痛感しているのです。