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■ 近頃のこと

2017/04/23

十二支の面作り

丸平さんで作られる本狂い人形とは、御所人形のような大きな頭に三頭身ほどの胴体をつけて衣裳を着せた、いわば衣裳御所というような人形です。
通常の人間のプロポーションで仕立てられるものを本行物(ホンギョウモノ)と言うのに対して、その寸法狂いという意味からの命名だったようですが、五世大木平蔵時代には今では考えられないほどの数が出たようです。
狂言や能の場面とか、三番叟などの舞のポーズで作られましたから、私の所蔵している本狂い八寸『末広がり』もその代表的なものです。衣裳の文様を凝った刺繍でされるものが多く、装飾の融通性にも長けた贅沢な人形なのです。
そもそも御所人形の体型なのですから手足は太く短く、衣裳を着けた胴体といっても、そのポーズといったら象徴的な範疇なのです。そのため、被り物を除けたり持ち物を替えたりすると、本来の題材とは別の人形になるのです。例えば『末広がり』の大名だけを使って、その頭の大きさに合わせた十二支の面を誂えて被せれば、新年の床の間を飾るに相応しい人形になってしまうというわけです。
以前丸平さんで、本狂い九寸だったかの『三番叟』のために、博多人形師の中村信喬さんが十二支の面(おもて)を作られたことがありました。とても面白い試みでしたし、本狂いの可能性を示す好例なのですが、先日ひょんな事から、私も本狂い八寸に被せる十二支の面を作ることになりました。
本狂い用の面を作るのは初めてではありません。『末広がり』を手に入れてから、『猿』の面を一つ、他に『うそふき』『けんとく』という狂言の面を二つ木彫り彩色で作り、それを被せて遊んでいた事があったのです。
先ずは来年の干支である戌(いぬ)を選びました。何しろ本狂い人形に装着させる面なのですから、基本的にユーモラスでなければならないでしょうけれど、造形的に写実を踏まえなければならないのは言うまでもありません。ともかく、大名の素袍が黒サテンに松の刺繍ですので、犬の種類がどうだとかいうのではなく、色の対比や相性からえび茶と白の毛色にしたのです。
私は、飼い犬に辛い思い出を消せないでいるのです。ロンは病気になって一週間ほどで亡くなったのですが、私が毎日家を出る時間に見回ったその時、もう動けなかったはずのロンが私に向かって歩み寄り、腕の中に倒れ込むなりグッグッと2回息を吐いて事切れたのでした。その時まで頑張ってくれていたのかと思うほど、その健気さが痛々しく申し訳なく、それ以来私は、庭を自由に駆け巡る放し飼いが出来るようになるまで、もう決して犬を飼うまいと決めたのです。
それから三十年近くなって初めて彫った戌の面なのですが、家で亡くなったどの犬とも姿は違うのですけれど、その表情や眼差しだけは、絶対に皆を偲べるようなものにしなければならなかったのです。
戌の次は亥(いのしし)が順当なのでしょうけれど、本当に十二支を作り終えられるかどうか分かりませんから、前々から作ってみたかった兎にしました。僅か二日の制作で、本当は試作の域を超えないのですが、一先ず完成としたのです。『不思議の国のアリス』に登場するような兎になりましたが、ちょっと小首を傾げさせると可愛らしいのです。それは犬の面でもそうですから、動物の仕草として特別なポーズなのでしょう。
さて次は何にしようか、頭の中で残りの十二支をグルグル巡らせているのです。

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