夕顔の平薬を作ってみたいと思い始めたのは、もう6年ほども前になるのです。
夕顔の花は朝顔と同じように思われがちでしょうけれど、花びらの下に細く長い筒があり、その先端にいきなり筒の直径の30倍にも及ぶ大きさの花を水平に近く咲かせるのですから、畳んだ傘を広げるように花びらを開かせる朝顔とは造形的にまるで違うのです。それ故朝顔を簡単に作れようとも、夕顔だとそうは行かなかったというわけなのです。
直径30cmの平薬にするのに相応しい花の大きさからすると、筒の直径といったら僅かに3㎜程度。その先端に直径10cmもの花を咲かせなければならないのですから、造花に仕立てる上で最も痛いところを突いた構造と言えば良いでしょうか。
初めて作る花の制作には必ず型紙を作り、和紙とか広告の紙とかで試作してみるのですが、理論的には添付図の最初に載せたもので出来る筈だったのです。型紙に書き込まれた覚書にある通り、この型紙は2011年に出来ていたのですが、どういうわけかその時点で試作してみた時に上手く出来ず、この型紙は使われないままお蔵入りしていたのです。
いつの間にやらそれから6年も経てしまっていた先日、とにかくもう一度夕顔制作に挑戦してみたくて型紙を取り出してみれば、どう考えてもこの型紙で間違いなく夕顔の造形が叶えられる筈でしたので、型紙通りに絹を切り出して組み立ててみたところ、何故前には出来なかったのかと思うほど、今度は何と言うこと無く出来てしまいました。
花びらの質感から滑らかな肌触りの絹を使うことにしたのですが、あえて少し黄ばんだ生地を選んだことによって、とりわけ襞(ひだ)の重なりには夕顔らしい自然な色彩と曲線が与えられたように思います。
夕顔という名そのものに、暮れなずむという時刻なのでしょうけれど、薄ぼんやりと暮れそうで暮れない夏の一時(ひととき)の彼方に、揺れるでもない揺れないでもない白い花が浮かんで見える光景に見えれば良いのですが、何とか6年越しの平薬を完成させることが出来たのです。