思い掛けず居場所が見つかった沢蟹でしたが、残った鷺も何とか活かしたかったし、それも深秋の平薬にしたかったのです。
インターネットで『深秋の風景』という画像を検索してみると、秋の花を中心に夥しい画像が登場するのですが、その中に野原一面のススキの穂が、晩秋の柔らかな陽射しを浴びて銀色に光る画像があったのです。即座に惹き付けられてしまいました。そして、鷺に合わせるのはこれだと思ったのです。
私は毎日、川の土手を横に見て車を走らせるのですが、土手が緑に覆われる頃だと目立たずに忘れてしまうものの、一キロ半にも亘ってススキが群生しているのです。月見の頃ともなれば、一斉に薄紫の穂が突き出るのですが、それがやがて真っ白に変わって土手一面を埋め尽くすのです。
葉は徐々に色を失って金茶に変わり、そこから無数に首を伸ばした白い穂が陽に照らされて、銀の波のように揺れたり、砂子をまぶしたようにキラキラと輝いて見えたりするのです。
また、土手の向こう側に夕陽が沈むものですから、高さの揃ったススキの穂の群生を夕陽の逆光に見る美しさと言ったら、時に切なくすらなるほどなのです。
夕陽の美しさは、人生の終わりにならないと分からないと晩年の伯父が話していましたし、母も晩年に夕陽の美しさを度々口に出していたのを思い出すのですが、切なさとはそうした感慨に通ずるものなのかと考えたりもするのです。
もちろん私は、今まで何度となくススキを作っているのです。青い葉を茂らせて夕立に濡れるススキだったり、枯れて乾燥し尽くしたようなススキだったりしましたが、多くは葉の曲線を主役にしていたのです。今度は夥しい数の白い穂こそを主役にして、その下に鷺を佇ませようと思い付いたのです。
ススキは絹サテンを解いて作りました。5cm程の小穂を6本ほど合わせて一本にまとめてあります。鷺は片足を上げて太い幹に止まらせたのですが、地面から幹の下までがカットされた構図なのです。
鷺の白、ススキの穂の白が色彩の殆どですから、鷺のくちばしに僅かな赤を差して、穏やかな温みを添えたつもりでいるのです。