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■ 近頃のこと

2017/10/06

幻の屏風

絵を描くことが苦痛で、そればかりはひたすら苦手意識から逃れられなかったのです。
しかし、手助けで描いて来た檜扇や絵元結、櫛をはじめ、野鳥の彩色やらの積み重ねが功を奏したというのか、今春熱心な要望に背中を押され、励まされ、初めて臨んだ犬筥制作では、彩色の融通性やらに余裕や楽しみが持てた上で、殊更完成の心地良さを味わえたのでした。
このところ、依頼によってまた五節舞姫の檜扇(高さ8cm)や絵元結(幅9mm)を描いていたのですが、松に鶴というオリジナルの図案でとのご希望を幸いに、自由に仕上げたのです。前にも書いているのですが、この制作ででも何だか幾らか上達したような感覚を新たに持てたものですから、この調子だと十数年間下絵を描いたままでいる屏風の彩色に、いよいよ進むことが出来るのではないかと、より具体的に思えて来たのです。
さてその屏風とは、丸平さんに残されている五世時代の写真帖に見つけたものでした。丸平さんで作られた特別な人形の写真が貼り付けられた中に、丸平さんの品というのではない、或いは雛屏風でも仕立てるための参考にでもしようとしたのか、どこかで撮って来られたらしい屏風の写真が一枚あったのです。それは屏風を直接撮影したのではなく、どうやら何らかの本なり雑誌に載せられた写真を撮ったもののようにも見えるほど不鮮明なのですが、六曲一双の月次図屏風なのです。
御殿の廊下の前庭に小菊が咲いているだけの十月図とか、どことなく寂しい場面が多く、描かれている花が何の花なのかどころか、消去法により辛うじて何月の図だとは分かっても、その月のどんな光景を描いたものなのかまるで分からない物すらあるのです。しかし、丸平さんも私もその屏風にとても惹かれてしまい、何とか復元出来たらと願ったのでした。
さて復元といっても、とにかく薄ぼんやりとした写真で細部がまるで見えなかったりするのですから、丸平さんは写真をもう一度撮影してから拡大したものを送って下さったりしたのです。しかし、何といってもモノクロの写真ですから、どんな彩色が成されていたのか、日本画ならでは遠景の省略などがどんな風にされていたのかも掴むことが出来ず、結局経験も少なく色彩の感性にも劣った私は、主に明治大正期からの名画から、似たような風景や樹木の描写をコピーして集めたりしたものの、下絵を描き終えた時点で途方に暮れたままでいたという訳だったのです。
それから十数年を経たこの頃、ああだったのではないかとか、こうすれば良いのではないかといった解釈と予測が、何となく湧いて来るようになっているのです。だからといって即座に描けるわけではありませんし、三月の図など真っ暗なだけで、何が描かれているのか未だに想像の余地すらないままです。松の描写に手慣れてきたことから、ともかく松が描かれた図からでも描き始めてみようかなどと、いよいよ復元に向かい出した...とは言うものの、男心と秋の空。さてさてどうなるものやら、行方も知らぬ秋の道かなです。

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