毎年今頃になると、まだ卵が産めるまでになれないまま、季節に取り残されてしまったようなカマキリが、日だまりの壁にポツンといるのを見つけるのです。
まだ蝉が鳴いていたりするのですから、今頃ならば卵を産めるまでになる可能性は残されているのかもしれないのですが、もう霜が降りそうになる頃まで取り残されたカマキリが、寒さを避けようとしてなのか、夜の玄関に入っていたりするのを見つけるのはとても辛いものです。
だからといって、蝶とかトンボとかを捕まえてきて与えるのは順列的にちょっと出来ないので、豚肉とかソーセージの切れ端を糸で吊し、それをカマキリの目の前で揺らしてみるのですが、結構あのカマでガッシリ捕獲して直ぐに食らいついてくれるものなのです。
今朝玄関先を掃除していたら、ポツンと一人朝の光を浴びながら、玄関の壁にじっとしているカマキリを見つけてしまいました。両手のカマをしっかりと合わせ閉じているので、何らかで片手を無くしてしまったのかと思った程だったのですが、人間も寒さを防ぐのに両腕を胸の前に合わせて縮こまるようにしますから、それを思い浮かべて気の毒になってしまったのです。
とにかく急いで豚肉の切れ端をちぎって来て糸に結び、カマキリの目の前で昆虫が飛ぶように小刻みに揺らしてみると、幸い直ぐにガッシリと掴んで即座に喰らい始めてくれました。
これは上手く行ったと、掃除の合間に何度も見に行ったのですが、僅かに10分ほどで食べるのを止めてしまいました。肉の切れ端をカマの先端にぶら下げて、今にも落としそうにしていましたが、直ぐに目の前で離してしまいました。やはり口に合わなかったのでしょう。
前には、豚の脂身を上げてみた事があったのです。ちょっと食べるなり捨ててしまって、その後長いことカマの付け根で口を拭い続けていたのです。よほど脂っこかったのだろうと可愛そうになりながら、何だかその仕草に笑ってしまいました。
至極当たり前でしょうけれど、結局あの人達は生きた昆虫しか口に合わないのかも知れません。なのに豚肉なんかを食べさせられてしまって、腹痛とか起こすことは無いのだろうかとも心配するのですが、気の毒ながら確かめようがありません。
私が小学生の頃は、まだ机の蓋を上に開けて弁当や教科書などを入れる形のものだったりしたのですが、或日の授業中にいきなり沢山のカマキリの子供が机の中からどんどん溢れ出て来て、大騒ぎになった事があったのです。
何と言うことはない、いつものズボラで採ってきたカマキリの卵を机の中に入れたまま忘れていたのが、誕生の季節を迎えて孵っただけのこと。カマキリには何の罪も無いのです。
それがいつ頃だったか覚えていないのですが、とにかく孵化してからあの大きさまで生き長らえられて今に至れた、紛れもなく極く少ないパーセンテージのうちの一人なのですから、何とか本懐を遂げさせてやりたいと願うのですが、秋は無慈悲な急速さで深まるばかり。もう何年もそんなカマキリを救えないだけでいるのです。
それにしても、触覚から脚の先端まで、なんという美しい構造でしょうか。全く、非の打ち所というものがありません。いつの間にやら紅葉していた、何だか分からないまま放ってある鉢植えとの色彩対比も見事で、改めて自然の造形というものに感嘆していた今朝なのです。