リスを彫って以来、動物を木彫り彩色するのが面白くなってしまったのです。
その楽しさというのは、そもそも今春十二支の面を作った時に知ったのでしたが、羊や馬、そして牛と作り続けるうちに、自分は動物も飾り物の範疇で彫れるんだと思ったのでした。
もっとも、まがりなりにでさえ鳥を木彫り彩色出来るのであれば、動物が作れないなどということなど無いのでしょうけれど、問題なのはあくまでも平薬などの飾り物に組み合わせて相応しいものになり得るかということだけなのです。
写実を踏まえながら、ほどほどに省略を施した様式化によって立体に仕上げなければならないのですが、私はその辺りに長けているように思います。
肝心な造形の把握のために、参考にする写真から覚え書きのようなデッサンをして作り始めるのですが、鳥の時と同じように一本のカッターで彫り上げ、岩絵の具で彩色するだけのことで、動物だからと何ら変わりなどありません。
今度彫り始めたのは鹿なのです。鹿もまたずっと以前から作ってみたくていながら、今まで取り掛かることが無くていたものなのですが、今年はどうしたわけか、苦手にしていた秋の平薬が立て続けに幾つも出来たので、いよいよ初冬を迎えては名残りのように、紅葉と鹿を組み合わせ『奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の』という百人一首を題材にした平薬をもう一つ作ってみようかと思い立ったのです。
最初はしゃがみ込んだ牡鹿を一頭、紅葉の下に置くような平薬をプランしたのですが、その鹿が思いの外楽しんで彫れてしまいました。翌日には針金に絹糸を巻いて作った角を頭に挿して胡粉塗りまで終わらせていたのですが、それを作業場に置いてきてしまった翌日の祝日が雨に祟られ、その手持ち無沙汰に耐えかねて、もう一頭彫ってしまったのです。二頭目は四つ足で立った鹿にしました。
調べてみれば鹿の角というのはオスにしか無いのだそうですから、やはり立った方をオスにするのが相応しいだろうと、最初に作った鹿の角は根元から切り落としてしまい、しゃがんだ鹿には牝鹿になってもらったのです。
さて二頭を台座に構成して平薬の輪に据え付けてはみたのですが、どうも二頭を彩る紅葉の枝振りというものがまるで頭に浮かびません。それどころか、そもそも鹿に紅葉という発想そのものが何となく通俗に過ぎる気になってしまったり、秋の平薬はもういいかと思ったりし始めたから厄介です。
ならばどうしようか何やかや考えても、上手く運ばない時というのは不発に終わるばかり。
しかしこうして思いを巡らせ続けてさえいれば、そのうち閃く事もあるだろうとサッサと放り投げて、新たな木彫りのためにまたお気に入りの図鑑をめくっているのです。