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■ 近頃のこと

2018/04/27

猫と白百合と青柿と

仕事場をすっかり整理したら、快適で制作の手が止まりません。何しろ制作の邪魔をするのは、リン(猫)だけですから。
リンとは日がな一日一緒にいるのですが、私が座る椅子を横取りしたがるのです。それで、作業台の上に座布団を置き、小さなホットカーペットも敷いてリンの居場所を作ったものの、用事でちょっと立った私が戻ると、もう椅子は横取りされているのです。
12年も前になりましたが、リンは突然紛れ込んで来た捨て猫でした。不思議な話なのですが、リンの前にしゃがんで初めて対面した時、私の頭の中で『リンです!』という声が響いたのです。それで『リン?』と聞いたらニャーと返事したので、リンという名前は私が名付けたのではなく、自己申告なのだと言い続けているのです。

前々から、朝露で真っ白にたわんだ蜘蛛の巣に魅せられていたのですが、山百合と組合せて夏の朝霧を平薬に出来ないものかと思い立ったのです。直ぐに制作に掛かったのですが、双方ともまるで手に負えませんでした。
蜘蛛の巣は出来ないこともないのですが、山百合を平薬のどこに配置して、その上で蜘蛛の巣をどんな形で張らせるのかなど、まるで漠然としたプランしか頭の中にありませんでした。
しかし、花を構成してから蜘蛛の巣を張らせるという手順では、絹糸で作る蜘蛛の巣自体も、作り方も、あまりにデリケートに過ぎますから、あたかも絵絹に描く日本画のように、キッチリとした下絵を作ってからでないと無理なのでしょう。
そもそも私には、下絵を作ってからの制作など不向きで早々に諦めたのですが、せっかくだし山百合だけでも作ってみようと挑戦してみたのです。
白百合を作った時の型紙で、予めドウサを引いておいた白絹から花弁を仕立て、その中央に黄色の絹を貼り付けて先端に鏝当て。岩絵の具で紅い点々を置いて花に組み立てたのですが、まるで山百合の情緒というものが出ません。どうやらそれは、技術以前の問題のように感じましたから、心底諦めたのです。
白百合は、随分前に酒井抱一の作品をヒントに『抱一憧憬』という平薬を仕立てた時以来一度も作らなかったのですが、これを機会に白百合が主役の平薬を仕立ててみたくなって、ともかく4輪の花と2つの蕾を直ぐに作り、籐の輪への構成も難なく済ませることが出来ました。
白百合には、まだ小さい実を付けた青柿を合わせました。ちょうど仕事場の窓外には、これからあらかたは落ちてしまう小さな小さな青柿が、瑞々しく透き通るような黄緑の若葉の根元にびっしりと実を付けていました。それを手本にしながら、白百合が咲くのはもう少し後のことですので、その頃に合わせて少し育った青柿5つばかりと、30数枚の青葉を作って枝にまとめ上げ、『白百合と青柿』の平薬が無事に完成したのです。
色の組合せも清々しく仕上がったように思いますが、百合の香りよりも、その季節ならではの情緒とか、息吹きのようなものを感じて頂けたならと願っています。

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