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■ 近頃のこと

2018/11/20

重陽節の菊籠(きくかご)

十一月霜月も下旬になって、いよいよ師走を目前にすれば、庭に乱れ咲く小菊の葉や花弁に枯れ色が混じり始めて、残菊の様相が日に日に深まっています。
この春初めて作った花水木の葉が落ち尽くして、沢山の実が枝先に赤く実り、庭の中空を彩っているのが、今年は取り分け目に鮮やに見えます。
九月九日の重陽節は本来旧暦での事で、新暦ならば十月の半ば近い頃だからこそ菊の節句なのですが、それからですら一月以上過ぎているのですから、今更重陽の節句でもないのですが、酒井抱一の描いた『五節句図』で、重陽宴の幅に茱萸嚢と共に描かれているのが『菊瓶』です。
瓶であろうが籠であろうが、菊花を器に盛っただけのことなのですけれど、琳派の作品にも菊や桔梗が籠に盛られたものがあって、さらりと描かれたそれはこの上なく達者で、又、申し分なく見事なものでしたから、有職造花で飾り物に仕立ててみたい望みをずっと持っていたのです。
以前、一月七日人日の節句に使われる七草籠や、三月三日上巳の節句の潮干狩りで用いられる貝籠というのを復元してみようと、そのミニチュアを竹細工の職人さんに依頼した時、なかなかこうした依頼を受けてくれる方に出会えないこともあり、この機会にと菊を盛る籠のミニチュアも誂えておいたのがそのままになっていたので、ちょうど作り溜まっていた何色もの小菊をそれに投げ入れてみたのです。
有職造花の菊花には何種類かあるのですが、どれほど手間であろうが、私にとっては色も形も情緒豊かで、葉も整然と瑞々しい小菊だけしか頭にありません。
菊花を抜き出す金型もあるのですが、それだと花びらの幅やらがどれも同じに出来ますから、私にはどうしても単調に見えてしまうのです。自然界にそんなことは有り得ませんから、それが気に染まない私は、16枚の花びらと先端のギザギザを鋏で切り出して作るのですが、菊の一花は最低2枚の花を重ねないと出来ないのに加えて、この頃は一片の花びらに2回鏝当てする製法を取っていますので、32枚の花びらを切り出し、64回の鏝当てをしないと一花にならないのです。
しかし、出来上がりを考えると仕方がありませんし、又、どれだけ手間を掛けようが、出来上がりが悪ければそれまでのこと。手抜きの挙げ句の偶然の産物であろうとも、出来上がりが良ければ価値は高いのです。芸術の範疇の評価は、手間賃仕事感覚やブランドなどではおよそありませんし、あってもならないでしょう。
明け方までの雨とは打って変わって、晩秋の晴れ間が広がって来ました。
リン(猫)は掘り炬燵の中で、熟睡に入ったようです。邪魔が入らないうちに、布団でも干して来ましょう。

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