以前作った七夕飾りは、江戸期の京都で見られた七夕飾りを基本にした物でした。
版本に見えるその七夕飾りは、長方形三色の紙を重ねて二つ折りした間に、また、正方形の紙を三角に折った間に梶の葉を挟み、五色糸を結び垂らしたものを、幾つもの提灯と一緒に笹竹に沢山吊したものなのですが、更に興味深かったのは、七夕流しの風習なのです。
寺子屋に飾られた笹竹に夕闇が迫ると、下げられた幾つもの提灯に灯を入れ、塾長と子達が五条の橋やらを目指し 、笹竹を担いで賑やかに出発するのです。
橋の上に着くと、天に向けて何度も笹竹を突き上げたりした後、川に投げ入れて流したのだとか。夕闇のあちこちに、提灯の灯が揺れて寄せ来る光景やら、川面に灯りが飲み込まれて行く風情といったら、どれほど美しい夏の風物詩だったことでしょう。
旧暦七月七日といえば、新暦では八月上旬の暑い盛り。浴衣に三尺姿の子等の可愛らしさも、見物に十分だったでしょう。
ともかく、それを参考に私が構成した七夕飾りは、檀紙の下に桃色と濃い緑の和紙二枚を撫子襲(なでしこかさね)にして、そ間に有職造花として作った大きな梶の葉を挟み、平薬に使う五色糸を垂らしたものでした。
先日、季節外れにその七夕飾りの依頼があり、同じように作りはしたものの、元々満足いかなくて居たものですから、どうにも納得がいかずに手が止まってしまいました。しばらく悶々としているうち、ふと閃(ひらめ)いたのです。
五色糸が主役である以上、梶の葉は控え目な添え物とした扱いが相応しい。ならば梶の葉は若葉にして全体像を見せた方が、王朝文化らしい美感を叶えるだろうとか考え至ったのです。
そこで梶の葉を、茎の長い小さな若葉に作り直して五色糸に付けてみれば、紐の五色や梶の葉の形が檀紙の白で生かされ、とても垢抜けた飾り物になったように思えました。夏の盛りの飾り物ならばこそ、七夕飾りはとりわけシンプルに仕立てられて相応しいでしょう。
とはいうものの、そもそも春先の今はおよそ季節外れ。忌々しく暑苦しい季節に入ったらまた写真を見直せばよいと、出来上がった七夕飾りの前で、初めて呑気に構えられたのです。