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■ 近頃のこと

2019/04/08

臥したリン

他人のペット話など、人が見た夢の話を聞かされるようなもので、あらかたはどうでもよいものです。
人と動物を同じ位置で語るのは、自分の子供に対する価値を、他人も同様に持って然るべきだとするほどの勘違いなのでしょうけれど、ペットとの交流、呼び込んでくれた様々な出来事、呼び起こされた感情というのは、それでなければ得られなかった、人生の貴重な糧ではないかと思うのです。

恐らく16歳を越えているリンなのですが、昨年6月に初めて食べなくなってしまってから、何度も鼻カテーテルを施して、栄養剤を直接胃に流し込む処置をされて来たのです。この2月からは、カテーテル処置をしても、もともと悪かった鼻がひどくなるばかりで、いつまで経とうが、ほんの少し食べるようにしかなりませんでした。
小康状態を何度か挟んでの3月下旬には、もう覚悟しなければと思うまでになってしまったものですから、ともかく諦めるのは別の医者に診て貰ってからにしようとの選択をしたのです。
診断は前の医者とは異なり、鼻カテーテルはストレスしか与えず、そもそも鼻の悪化が要因ではないかとの治療方針に変わり、それで突然パリパリと、小粒のにしたキャットフード(療法食)を食べてくれたのです。しかし、それもたった2日のこと。以後は、一向に食べてくれなくなってしまいました。
それどころか、病院に行くだけで衰弱してしまい、4/4の早朝には、指で強制的に与えていた高カロリーのペーストを初めて吐いてしまったのです。以後、水すら飲まなくなってしまいました。もう駄目だと思いました。仏壇の母に、苦しまないうち迎えに来てくれるよう頼んだりもしました。
そんなリンが、まる2日水を飲まなかった4/6、毎朝の掃除をしていると、早足で居間に歩いて来るではありませんか。そのまま居間を抜けて行くので、驚いて追いかければ、私の仕事場の窓辺なのです。リンがよく、制作の邪魔をしながら外を眺めていた場所です。良い天気でしたし、陽を浴びた方が良いかと、いつも日向ぼっこする、玄関前に置いたお気に入りの座椅子に連れていくと、寛いだ面持ちでゴロゴロ喉をならしてくれたのです。
瞬間、もしかしてと急いで水を持っていくと、自分から飲んだのです。本能的な自然治癒力の賜かもしれません。そもそも独特の毛色は未だ輝いたままなのですから。
15分程すると、リンは座椅子から立ち上がり、玄関の上がり口もサッと飛び乗って、また自分の炬燵に戻って行きました。どこにそんな力が残されていたのか、奇跡とも思いました。
しかし、自然治癒力に委ねてこのままにしておくのが良いのか、再び医者に連れていくべきなのか、ならば新旧どちらの医者が良いのかとか混乱してしまい、全く判断がつかないのです。
昼過ぎ、仕事場にあるパソの前に座っていた足元で、小さな声がしたように思って目を落とすと、元気な頃によくそうしていたように、リンが呼んでいたのです。今度は仕事場で日向ぼっこです。ブラシを気持ち良さそうに受けては、私の顔に頭を押し付けてくれます。奇跡を期待して、キャットフードを近づけてみましたが、やはり顔を背けてしまいました。
一見、昨日一昨日とは見違えるほどなのですが、とにかく食べなければ何の解決にもならないのです。衰弱の懸念で医者には連れては行く気になれない。ならばと、話を良く聞いてくれた新しい病院の方に、私だけ相談に伺えるかと聞いてみると、快諾されました。迷惑にならないよう、診療が終わる頃に行くと、ゼロよりはましだというつもりで、ほんの少しでも良いから食べさせるように。吐いてしまっても、それでもう駄目というのではないし、3時間もしてからまたあげれば良いのだけのこと。諦めるなどとは言わずに、介護してあげて下さいと言われて、すっかり気持ちを楽に出来たのです。
帰って来て直ぐ、炬燵から首を出していたリンに、フランスの高カロリージェルを少しだけあげてみました。良かったのかどうかは分かりません。戸惑うように飲んでくれたものの、直ぐ疲れたように横たわってしまったからです。
無理に食べさせられるのは嫌に違いなかろうし、また嫌われてしまったかと思ったのですが、23時頃リンを見守れる位置に敷いた布団に入ると、それを見ていたリンが、ひょいひょいと炬燵を出て、布団に入ってきて来てくれたのです。巣籠もりさせるようにお腹に包み込んで抱くと、すっかり痩せこけていて、不憫でなりませんでした。
今日4/8は雨。天気さながらに、具合は芳しくありません。
人間も動物も変わりなく、いつかは寿命の尽きる時が来ます。十二分に承知しているのです。何度もそれに立ち会って来たのですが、死に接するのは、自分の時が一番楽なのかもしれません。逝く側ですから。
嘆きの混乱から這い出せることなく、今は何もする気になりません。こうして書き記す時間に逃げ込んでいるのです。

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