去年の6月頃だったでしょうか、ある団体から橘の立木を作れないかとの相談が入ったのです。
桜の立木ならば何度か依頼があって制作していますから、およそ意外なこともないのですが、橘には垣根も付けず、ただの立木をご所望だといわれるのです。会社のホールに飾るのだというお話でした。
そもそも私は、組織というものが全く信用出来ません。何度か団体から酷い目を浴びせられている私は、85㎝四方という破格な規模に、以前のような理不尽なキャンセルを喰らわされでもしたものなら、それこそ目も当てられないと警戒せざるを得ませんでした。桜のパーツはいくらでも転用出来るのですが、節句用の桜橘を作らない私ゆには、橘の転用など皆無に近いのです。
そして何よりも、そんな大きなものをどうやって荷造りするのかというのが、私にとって最大の問題なのでした。
昨夏、80㎝四方の垂れ桜立木を制作した時、それを送る荷造りにホトホト閉口してしまったのです。そもそもそんな大きな物が入る段ボール箱などありません。見かねた丸平さんが、京都から店で使う一番大きな段ボール箱を2つ畳んで送ってくれたのですが、その送料が4900円という笑い話。
それを繋いで、やっと何とか垂れ桜立木の入る箱を作ったのですが、それでも蓋になる段ボールは、更に別の箱を潰して仕立てるしかなかった程だったのです。
その箱に立木を括り付けるのがまた大仕事で、猛暑の最中でもありましたから、遠方に送る難儀さ厄介さには、つくづく閉口してしまったのです。
今回の橘立木は、それよりも大きな物というのですから、それだけで引き受けられない理由に十分だったのです。
しかし、こちらから断らなくても、それから音沙汰がなくなって、話は立ち消えたと疑いもしなくなった半年後、突然正式な依頼に急展開したのです。
3月末、団体のお一人が、1100㎞も遠方から家まで来られたのでしたが、その時突然幅85㎝を120㎝にして欲しいと仰るのです。勿論即座に固まった私でしたが、車で引き取りに来ますと言われては、そんな大きな有職造花など、もう二度と作る機会もないだろうと、制作への興味が勝っていったというわけなのです。
制作は、4月に入ると同時に開始しました。輸送の心配がないとなれば調子に乗り、梅の古木の太い幹を何本も使って木組みしたのですが、思いの外上手く行って、幸先の良いスタートが切れたのです。
最終的な葉数は3000枚。橘の実が107個に、花が31。蕾は50を超えたのですが、高さの85㎝こそ指定通りなものの、古木自体の形や曲がりを生かして、目一杯左右に這わせた枝での幅(間口)は148㎝。奥行きは100㎝にもなっていました。何度もパーツを追加しながらあらかた完成した時、撮影のために移動させようとしたら、大き過ぎて部屋から出せないのに初めて気付いたというお粗末。サッシを外してやっと出すことが出来たのです。
つい数日前、女性一人きりで1100㎞を運転して取りに来られたのには驚きましたが、ともかく無事に納品も叶いました。大きなホールに据えられた画像を見れば、もっともっと大きなものでも良かったほどなのでした。
今後、あれほど大きなものを制作することなど、先ず無いでしょうから、得難い体験を与えて頂いたものと、団体というものへの信用回復の気持ちも芽生えたり、様々感謝すら覚えているのです。