私は葛が大好きなのです。
花や葉は言うまでもないのですが、最も惹かれるのは、巻き付く場所を失った蔓の先端が宙に浮いたまま、風に靡いたりしている光景なのです。
しかし、高速道路のフェンスであろうが、街中の小さな空き地であろうが、どこでもあっという間に群生してしまって、しかも電柱を支えるワイヤーであろうと、高圧線のタワーであろうと、どんどん空に伸びていってしまう葛というのは、駆除しなければならない側からしたら、随分と厄介な植物なのではないかと思います。
今までに、秋の平薬として葛の平薬を2種類作ったのですが、今回は、伸びる蔓に解放された生命力を感じると仰る方からの依頼なのです。
蔓植物こそ私の十八番だろうと、生意気に自負まであるのですが、藤、鉄線(クレマチス)、朝顔等々、先ず実際に咲いている蔓を伸ばしたような状態に作ってしまい、それを何らかに巻き付けて行くのです。
その時に偶然現れ出る曲線や、流れの方向の意外性のようなものを導き出すといった方法については、前にも書いたように思うのですが、出来るだけ自然に任せ、作為を表に出さないのが私の信条なのです。
勿論葛は、地面から這い出して、横や上に伸びて行くのが殆どなのですが、梅雨始めの頃に福島の柳津という所の温泉に出掛けた折り、あまりに情緒ある風景があったので、車を止めて眺めたのでしたが、そこで杉の枝まで這い登った葛が行き場を失い、地面に逆戻りするように垂(しだ)れる光景に出逢ったのです。
梅雨曇りの中にあまりに美しかったものですから、撮影しておきました。
そのせいでもなく、別に今作らなければならないこともまるでなかった葛の平薬なのですが、先ずは花を作ってみようと、思い出しながら始めてみれば、途端にスイッチが入ってしまい、蔓を伸ばした状態のパーツが、さっさと3本出来上がったのです。
それを手に取って、さてどんな構成にしたものかと、あれこれ試し始めたのですが、1本だけは輪の下まで、長く垂れさせようと決めていたのです。
輪の上部に枝を斜めに据え、それに2本を絡めさせてみれば、残り1本も自然に垂れさせる事が出来たのでした。
コロナによって、自粛を強いられた店舗等がやっと再開出来たものの、中々元通りにはなりません。それどころか、コロナは第2段階なのだとか。
だもの、物怖じもせず伸びて行く、瑞々しく逞しい葛の蔓に精神的な救いを見たところで、無理からぬことなのでしょう。
私はあくまでも、出来上がりには品位と情緒を求めるものですが、垂れ下がった蔓にそんな精神性が伺えるというのならば、それも光栄なことかと眺めているのです。