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■ 近頃のこと

2020/10/08

ツルウメモドキの平薬

久しぶりに、以前から制作に大きな助けが得られていた『原色精密日本鳥類写生大図譜』を開いてみると、エナガという野鳥の絵にツルウメモドキが描かれていたのです。それも、少しばかり色付いた青い葉をつけたツルウメモドキで、そこにエナガが止まる図でしたから、目にするなり直ぐにその平薬が作りたくて堪らなくなってしまったのです。

この図譜、勿論基本は野鳥の写生なのですが、様々な花や植物とペアにされているのです。題名に『原色精密』とあるのに違わず、その植物の写生も精密この上なく、花の構造や葉の付き方等々、自然の成り立ちを十二分に知ることが出来ますから、鳥も植物もこれさえあれば、平薬を組み立てることが出来たりします。実際、この本によって作ることが出来た平薬には、ハコネウツギをはじめとしていくつもありました。

ツルウメモドキといえば、すっかり葉の落ちた細い枝に、赤い実を覆った3枚の黄色い萼(?)がパカリと開いてたわわに実る写真が主ですから、それを作るとなると、萼の付き方に難しさがあって叶わないものの、僅かに色付いた萼が、未だに赤い実を覆っている時期を描いた絵でしたから、渡りに船だったのです。

そもそも、その実の形態ならば作れると思ったのは、先日河柳の平薬を作った時の蕾にあるのです。

直径3mm程の半球の形になるように鏝当てした数枚を、胡粉の玉に貼り付けて仕立てた蕾でしたから、ツルウメモドキの実など、同じように仕立てた半球を、造花材料の赤い玉に3枚貼り付けるだけの、何ということもない作業で出来てしまいます。後は気長に、必要な数だけ作ってしまえば良いだけでした。

葉っぱは、ハサミで切り出した葉の裏に針金を貼り、更に和紙を貼り付けることで、葉の厚みと裏表の対比を際立たせました。

私はよくよく蔓植物が好きなのでしょう。藤などはいうまでもなく、朝顔、夕顔、葛、蔦等々、滑稽な話なのですが、自分でも上手いものだなと思うことすらあるのです。蔓には、右巻きと左巻きがあるようですから、厳密にいうと間違いはいくらもあるのでしょうけれど、何本もの蔓を作って、偶然を目論みながらそれを巻き付けての構成には、即座にインスピレーションすら湧くのです。

大図譜によって、ツルウメモドキの枝の曲がりや、独特に絡みつく蔓の特徴を捉えながら、幾本か作ったパーツで構成しましたが、最後に木彫彩色したエナガを蔓に止まらせて仕上げました。

私の作った有職造花の中では、サルトリイバラ同様、野趣豊かな平薬に作り上げられたようです。

気が付けば、いつの間にやら庭の大きな木犀が、びっしりとオレンジ色の花をつけていました。いよいよ本格的な秋の到来です。

その時々の感動や衝動で生み出される平薬ですから、次はどんなものが出来上がるのかなど、私にすら予測出来ないことなのですが、その楽しみは作る者だけの特権というものなのでしょう。

ツルウメモドキの平薬 卓上の様子

ツルウメモドキの平薬 パーツ

ツルウメモドキの平薬 鳥のアップ

ツルウメモドキの平薬 全体

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