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■ 近頃のこと

2021/01/11

てんでしのぎ ─ 丸平雛コレクションの公開 ─

ずっと自宅とは別の場所に保管してあった私の丸平コレクションでしたが、中でも最も私ならではに育て続けたのが、背丈が60cmを超える二番という大きな雛を親王に据えた組物なのです。

下物と呼ばれる、官女、楽人、随臣、仕丁などの定番の他、五節舞姫やら姨捨やら、色々な思惑で追加し終えた時には、とうとう二十七人揃いにも膨れ上がって、二番親王尺三寸二十七人揃の完成でした。

尺三寸とは、立った雛の足元から額まで39cmというサイズなのですが、座った雛ならば、頭の上までで32cm程。親王のサイズ表現からだと、五番に該当する大きな雛ですから、それで段飾りをするとなると、雛段自体が最低でも八畳の大きさはないと、十分に飾れないのです。雛段の間口が360cmでも、五人の官女がやっと並ぶに過ぎません。

今まで何度か、美術館での雛人形展で横並びさせたことはあるのですが、天井も高くガラスに覆われた展示ケースにではなく、通常の民家で段飾りしてみたいという望みは、年々膨れ上がっていたのです。

自分の家で、自分のコレクションを飾りたいという思いは、それが最初で最後になろうとも、30年以上に亘って揃えて来た丸平雛コレクションの締めくくりの思いでもありましたし、私のコレクションを観たいと仰る方々からの、コレクションを埋もれさせないで欲しいとの強い希望でもあったのです。

さて、自宅に保管しなかったのは、築90年の古い家のことで湿気も多く、カビにやられてしまうからだったのです。

しかし、とにかく二番親王尺三寸二十七人揃を自宅で段飾りしたいという強い思いから、一昨年の4月、庭の古い納屋を撤去して小さな収蔵庫を建て、いつでも段飾り出来るように、コレクションをすっかり自宅に戻したのです。

去年三月、雛の節句に合わせていよいよ段飾りしようと準備を始めた矢先、このコロナで中止せざるを得ず、ならばと九月九日重陽節の『後の雛』に飾って公開することにして延期したのですが、まるで終息を見なかったコロナに、とうとうそれも中止したのです。

見学希望の方々が東京を通って来なければならず、やむ無いことでした。

それにしても、八畳大の雛段とは巨大なもので、雛の入った木箱などを土台に、30×180cmの桐板24枚を渡して作るのですが、何しろ八畳間に八畳大の雛段を作るのですから、親王の載る最初の段から1段ずつ雛を飾りながら、徐々に雛段を作って行かなければならないのです。

そのため、例えば飾り終えた後に、地震とかで女雛が手にした檜扇が落ちるとか、何かが倒れるとかしても、それを直しに行くことが出来ませんので、単に置いて行くのでは済まない、固定の必要が強いられたりもします。

そんな雛飾りですから、大袈裟でなく嫌が上でも生涯一度きりの挑戦(実現)になるだろうことは、否めないように思います。以前一度、官女を見たいと言われる方々の訪問に、箱だけを置いて毛氈を掛けた仮の雛段を設え、その上に官女8人を2段に並べたことがあったのですが、案の定、大きな箱を収蔵庫から八畳間に運び込んだだけで息切れしてしまい、つくづく段飾りの容易ならざることを思い知ったのです。

それが27人に、24枚の板を渡しての雛段作りだというのですから、長く望んで来たこととはいえ、えらいことになったという思いばかり。実はコロナで胸を撫で下ろしている自分もいるのです。

ただ、公開するとはいえ千葉県の田舎のこと。なかなかお出でになり難いこととは思いますが、公開に漕ぎ着けられた際には、ここでや大木素十丸平コレクションのホームページ上でもお知らせさせて頂きますので、お問合せの上、見学にお出で頂けたらと願っています。

それにしても、恐らく日本中でも唯一であろう大きな雛組物が、民家の八畳間に飾られた時の豪勢さ、桁外れた異空間といったら、想像しても余りあるものではないかと思います。

山陰の冬の海といったら、それこそ毎日大荒れで、漁師は海を前に、ただただ天候待ちなのだとか。それを『てんでしのぎ』というのだと、昔『夢千代日記』というドラマで聞いたことがあります。

雛飾りの実現は私次第ですし、一番楽しみにしているのも私に違いないとはいうものの、私の雛飾りもコロナの前で『てんでしのぎ』です。

てんでしのぎ

てんでしのぎ

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