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■ 近頃のこと

2021/05/21

端午飾りと七夕飾りと

まだ5月も半ばを過ぎたばかりだというのに、まるで梅雨入りしたかのような雨が続いていました。

また、ただただ憂鬱で、忌々しいだけの季節の始まりです。

端午の節句と言えば、今では晴れ渡った空が五月の代名詞にされて、そこに過ぎる爽やかな風に、鯉幟がもっとも相応しい季節のように定着していますけれど、そもそも節句の設定は旧暦のことなのですから、端午の節句の五月五日など、今年ならば来月の14日。梅雨の真っ只中のことなのです。

このところの、じっとりと黴(カビ)を呼込むような天気こそが、菖蒲で邪気祓いをしなければならなかった、端午の節句ならではだったわけです。

それと関係があるわけではないし、コロナの邪気祓いというのでもまるでなかったのですが、どうしたわけか去年の秋から『真の薬玉』の制作依頼が続いていて、先日また新たな注文で作ったのです。

それが何と7つ目なのでした。

2/8の『近頃のこと』に、『先月は真の薬玉を3つも仕上げた』と書いているのが4つ目でしたから、それから3ヶ月で、また3つも作っているのです。

『真の薬玉』は、言わば究極の有職造花というような、別格扱いされているのは何故なのでしょう。京都の老舗旅館や高級料亭ほど、端午の節句の設えに欠かせない有職造花にされているのです。

『真の薬玉』に使われる花といったら紅白の皐月だけで、しかも同じ形、同じ大きさの花を並べたものですから、華やかな美しさを愛でるという種類の有職造花ではありません。

真行草3種類の薬玉からこれを選ばれる方というのは、相当に有職通か、有職を踏んだ生業の方と決まっているようなものなのです。

当然、『真の薬玉』を常に置いて商われている店など殆どありません。10年に1度売れるかどうかというくらい、滅多に売れないと聞いていたのに、昨秋から僅かに半年ばかりで7つとは。しかも最後の依頼から、既に10年も過ぎてのことなのですから。

『真の薬玉』は、『貞丈雑記』とか『古今要覧』等々、様々な有職文献に異なる図が幾つも見られるのです。大概は、立体の成り立ちが曖昧な絵空事だったり、取り分け江戸の文献にある物などは、ゴテゴテとあまり趣味が良くなかったりと、多くは実物を見た上での絵ではなかったように思うのです。

絵画に登場する『真の薬玉』といえば、菊池容斎も『前賢故実』に描いていました。

浦虫という老女が見上げる柱に掛けられているのですが、さすがに上手に魅力ある形で描かれているとはいうものの、さてそれを復元出来るかといえば、薬玉がとんでもなく大きくならざるを得ないとか、そもそも『真の薬玉』なのかも疑問になってきたりなど、やはり所詮は絵空事なのでしょう。

ともかく、端整に鏝当てを施せば何とかなってくれる『真の薬玉』なのですが、いつ出来上がっても、独特な品格が浮き立つのが『真の薬玉』の不思議さで、別格扱いをされているのも、その辺りに理由があるのかもしれません。

さて、新暦の端午の節句が過ぎるなり、珍しく七夕の有職飾りの注文が舞い込んだのです。

檀紙に2枚の色紙を挟んで2つ折りして、五色紐の結び目に小さく仕立てた梶の葉をさり気なく1枚だけ置いた、オリジナルの七夕飾りの注文なのです。

このマニアックな有職飾りの注文が来るなど思いも寄らず、各色27mずつ仕入れた五色紐全てを淡路結びしてしまったため、その七夕飾りを仕立てるには、新たに五色紐を特注しなければなりません。五色紐は最低9mでの注文で、価格は8万近くにもなってしまうのです。

それで、淡路結びされた五色紐での工夫で、何とか同じようなものに出来ないかと試作してみたりしたのですが、どうもスッキリいきません。

ならば、檀紙と淡路結びの五色紐での新しい七夕飾りをと考えるなり、即座に思いついたのでした。

全く新しいアイデアというのでもないのですが、七夕飾りならば梶の葉の飾りよりも分かりやすく、幸い代替品として気に入って頂けたようです。

涼しげな端整さに不足もないこの七夕飾り。笹竹の種類からしても、実は私のお気に入りなのです。

七夕飾り

婆さんの絵

真の薬玉

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