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■ 近頃のこと

2021/06/16

同行二人

以前、制作を断念したと書いた巨大な桜の立木制作なのですが、もう少し規模を縮小したものでも良いし、来年2月末の納品という、長い制作期間の設定でも作って貰えないだろうかと言われたのです。

そこで、必要なパーツの1日あたりの制作ノルマを計算してみたりするうちに、工夫によっては出来るのかもしれないと、何となしに考えが改まり始めたのでした。

高さが150cmといっても桜のことですから、例えばツツジのように、根元からてっぺんまで満遍なく花をつけるわけではないのです。

枝は、太い幹のある程度上から斜め上なり、横なり、斜め下なりと伸びることなど、基本的な成り立ちを観察し直してみたり、桜といえば山桜とばかり思ってしまうのは私の感覚で、一般的には満開の染井吉野なのでしょう。

とすれば、葉などは最小限で良いのだしとか、何だか作りようによってなら、完成への道筋や可能性が見え出して思えたのです。

更に、これから先いつまで制作を続けられるかなど、もはや呑気にしていられるわけでもなく、ましてやそんな大作の制作といったら、気力、そして体力からしても、最後の機会なのかもしれないのです。

しかもそれを、依頼によって作れるというなど、そもそも生涯に1度あるかどうかの千載一遇さなのではないかとか、ここまで有職造花制作の道を歩んで来ての一先ずに、その集大成としても是非引き受けて、成し遂げてみてはどうかとの助言もあったのです。

何よりもその通りなのです。

下拵えである、幾種類もの膨大なパーツ作りに見通しが立った訳でもなかったのですが、覚悟を決めたこの6日から、先ずは丹後ちりめんの一越(ひとこし)を使った花を、いきなり作り始めたのです。

しかし、花と蕾で10000というのと同じだけの萼(ガク)作りだけでも、助っ人が得られなくては、実際のところその気になって作り始めたろうとも、やはり断念するしかなかったでしょう。

数ヶ月前のこと、ホームページからメールをくれた男子高校生が居ました。
3歳で雛人形に魅せられ、10歳で有職雛と丸平大木人形店を知り、13歳で本格的に有職故実を学ぶために専門書籍を蒐集し始めたという驚くべき16歳でした。

装束の知識も私など足元にも及ばず、御引き直衣すら自らの手で仕立ててしまわれる方ですから、私は彼ならば桜の萼など、容易く作れるはずだと踏んだのです。

思い切って面倒な下仕事を依頼してみたのですが、快諾が得られた時には、あたかも厚い雲間から輝く陽が真っ直ぐに射し込む思いがしたのでした。

早速紙を染め、型抜きした7000枚ほどの萼の材料を送らせて貰うと、受け取るなり直ぐに試作してくれたのですが、たった1度の助言で申し分のない出来栄えに至れたのです。

どうやらこれで、完成への道に確かな1歩を踏み出せたように思えたものの、厄介な雄蕊(オシベ)制作が未だ立ちはだかるままなのです。

雄蕊は、漂白した腰の強い植物繊維を材料にしています。それをある程度の太さに束ね、針金で7mm程度の間隔で括るのですが、1000回も針金を捻り続けると、画像のように爪が削れてしまいます。

括った繊維には、更に花粉を施さなくてはなりません。花粉は、日本画の山吹の岩絵具なのですが、ボンドを付けた指先で繊維を開き、ボンドの乾かないうちに付けては、切り離して完成とするのです。
その作業の何と面白みもなく面倒なことか。それを7000も作らなければなりません。

いざとなったら、今まで通りに自分で気長に作り続ければ良いだけなのでしょうけれど、萼作りに16歳の彼のような、信じ難いほど驚異的な助っ人が得られてしまった今は、またそんな助っ人が降って現れないものかと、天ならぬ天井を仰いでしまうのです。

萼が出来れば、それを花や蕾に貼り付ける作業が10000。それが済んだら、雄蕊を接着させる作業が7000程。それを5つずつ合わせれば、2000のパーツが出来、そのパーツを3つずつ合わせると、666本程の小枝になるのです。

そこでやっと、極めて肝心な木組みに取り掛かることが出来るのですが、それをクリアして漸く、植え付けが始められるというわけです。
植え付けには3日も掛からないでしょう。

染井吉野の立木制作は、下拵えの作業ばかり、遥かに先まで続くのみなのですが、この一世一代の制作は、会ったこともない頼もしい助っ人との、同行二人です。

桜のパーツ

萼(ガク)

雄蕊(オシベ)の材料

爪

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