知らないものを調べないままにすると、実に滑稽を産むものです。
先日、有職造花制作について問い合わせ頂いた方は、『近頃のこと』を全部読まれたとのことでした。
ちょうど4年前の12月、雛道具は全くコレクションの対象外である私には珍しく、品のある精巧な作りの琴をヤフオクで見るなり魅せられてしまい、落札したことがあったのです。
立派な漆塗りの箱に入れられたその琴ですが、どうやら雛道具としてではなく、木目からしても、実物のミニチュアとして制作の必要があったものではないかという見解もあるのです。
何しろ正確な縮尺に見えて、少しも玩具然としない上に、私の尺三寸楽人が弾くのに、大きさがドンピシャだったのです。
私の目論みは、楽人をもう1人増やすことなく、和琴を弾く楽人の手をすげ替えるだけで、琴弾きにもなるだろうというのでしたから、早速琴を弾く手を彫り始めました。
琴爪は、わざわざ黄ばんだ和紙を何枚も貼り重ねて、象牙のような色に仕立ててから、幅2㎜長さ3㎜に切り出して1つの琴爪とし、それを幅1㎜の帯に貼り付けたのを細い指に巻いて、装着させたのです。
そんな苦心で出来たのでしたから、琴の画像に加え、その手も『近頃のこと』に載せていたのです。
琴爪は、5本指全部に付けてありました。
問い合わせの最後に、既にお気づきならば御容赦頂きたいのだけれどと断られながら、琴爪は親指、人差し指、中指の3本だけに付けるもので、しかも指を伸ばして弾くこともないとのご指摘でした。
読むなり、そりゃそうだと笑ってしまいました。
知らないのに調べないというのは、誠に滑稽な事になるという見本みたいなものです。
それによって、和琴の弾き方もyou tubeで調べるに至れたのですが、旋律を弾くとばかり思っていた右手の篦(へら)では、上の弦から下の弦まで、一気に掻き下げたり、掻き上げたりするだけらしいのです。
旋律は1音1音、左手小指までの指で、弾(はじ)くようにして奏でることを知りました。私の和琴の左手といったら、琴を弾く時のように、弦を押すような手に作っているのです。
楽人は、皆胡座(あぐら)をかかせて作られています。
和琴は、右膝の上とかに端を乗せて弾くらしいのでそれで良いものの、出来上がった琴爪付きの手を意気揚々と付け替えて琴を置いてみれば、どうも琴を弾くポーズになりません。
胡座の姿勢では、前のめりに体重をかけて弦を押さえるのには無理があるのです。
やはり、胡座で琴を弾くことはないのでした。
間違いを正せただけでなく、関連する知識が得られたのは、いわば怪我の功名というものでしょうけれど、琴を手に入れて、琴弾き楽人を兼ねさせるという目論みは潰えたという顛末。
琴も、琴を弾く手も、琴爪も、当分日の目を見ることがないだろうことを惜しみながら、さっさと楽人の左手を彫り始めたのでした。