いつの間にか、もう4年半も前のことになっていましたが、丸平さんに残っていた十二世面庄の頭を使って、本狂い八寸という四頭身程の子供大名を誂えたいという方のお世話をしたことがあったのです。
その大名をといったら、黒地の素襖に松を刺繍して、何とも凛とした愛らしさだったのですが、私が間に入りながら、それだけ納めるのではちょっと寂しい気がしましたので、以前丸平さんでされたように、十二支を面に仕立て、正月度にその面を替えられるようにされたらと提案したのです。
勿論、面は私が木彫彩色してお渡しするのですが、次の正月が戌年だったからでしょう、最初に舌を出した子犬を作ったのです。
何しろ面作りの面白さが先走っていますから、後から後から出来てしまい、私なりの子(ね)、丑(うし)、卯(うさぎ)、巳(へび)、午(うま)、未(ひつじ)、酉(とり)、戌(いぬ)、亥(いのしし)の9つを、追いかけるように仕上げては納めたのでした。
作りたいものから作った9つ目は酉だったのですが、楽に作れるかと思いきや、意に反して何もかもが厄介で、作り終えるなり息切れしてしまったのです。
そもそも、あまり立て続けに作っていると、どうしても目や手や発想がマンネリ化しがちで、完成度も落ちたりの弊害が出てしまったりするのです。
それで、取り敢えず9つだけ納めるに留め、残りはその干支が来年になった都度制作して、お届けする事にさせて頂いたのです。
納めた面の干支が続いたことから、残りを作ることもないうちに、とうとう来年は未納の寅年となりましたから、この暮れに至って木彫彩色の面制作を再開したのです。
申(さる)が残ったのには別の理由があるのですが、結局後回しにされたのは、苦手な物という事です。
辰(たつ)は、架空生物の上に長い顔ですから、それが厄介なのですが、寅については、そもそも私好みではないというだけなのです。
彫り始めはしたものの、どうしても気乗りしません。これは謝ってしまうしかないかと投げ出し掛けた時、突然閃いたのです。
家の猫だってトラだ。
次の瞬間、こりゃいいや!と笑ってしまいました。
納め先はシャレの通じる方ですから、これで行けると決めたら直ぐに彫れてしまい、その日のうちに胡粉塗りも終えて、翌日には彩色に掛かれました。
仲良しのトラのことですから、スマホの画像からばかりでなく、時折は本人にもモデルして貰って、何とか彩色も済ませられたのです。
まだ年越しまで間があるのですから、しっかり仕上げすればよかったのでしょうけれど、シャレばかりは古びてはいけません。
幾枚か写真に収めるなり、サッサと荷造りして、送ってしまったのです。