いつの間にか、今年も数日を残すだけになってしまいました。
染井吉野の立ち木を作り終えてから、以後の制作はいつでもそれが最後の一作で、私の到達点とされて然るべきものを作って行かなければと思うようになったのです。
やはり思いがけないことでした。
とはいえその後はといえば、友人からの頼まれ物だった、小ぶりの茱萸囊一つを仕上げたくらいで、新作に向かうこともなく、修復ばかりでいたのです。
修復が一段落しての手持ち無沙汰を避けるべく、平薬などの制作で余ったパーツを、花の種類別に保管してある箱を開けてみれば、小菊の作りかけが結構残っていたのを幸いに、新たに染めたものも含めて、色もサイズも様々な小菊をかたっぱしから完成させてみました。
それが60花にもなったものですから、手間の掛かる折角の小菊なのだし、何かに生かしたいと思って考え付いたのが、季節外れの七夕花扇だったのです。
今までに三度も復元した七夕花扇のことですから、今回はススキ、女郎花、小菊、撫子、桔梗、蓮、白萩と、七種の花は厳守された、オリジナルの七夕花扇にしても許されるだろうと思い立ちました。
七夕花扇にかかわらず、平薬だろうが制作法を見い出せないままだった女郎花を、黄色に染めた真綿で仕立ててはと思い付いたばかりなのもあって、随分意欲的に取り組み始めたのです。
七夕花扇が描かれた幾つかの図をみると、撫子、桔梗、小菊などがそれぞれ横長の長方形にまとめられ、互い違いに置かれる共通点があるのですが、それがどんな意味を持つのか調べられないまま、七種の花を初めて自分なりに散らしてみたのです。
これまでは、先ず扇を閉じた形に骨組みを作り、それに短く仕立てたススキなどを植え付けていたのですが、今回は紙包みの下方に、桐の板で最小限の土台を設け、それぞれの花本来の茎の長さを踏まえたパーツに仕立ててから、植え付けたのです。
そのため、ススキを最たるものとして、花々の持つスケールとでもいうようなものを表現出来たのは良かったものの、七夕花扇というのは、結局のところ花束に過ぎないことを確認したばかりなのでした。
とても華やかながら、それでも有職造花らしい様式や美観で、華美な絵空事だけに堕ちない独特の世界が見られるとはいうものの、所詮有職造花で仕立てた七夕花扇というのは、これが限界のように感じざるを得ないでいるのです。
年末になって始めた、言わば〆の制作となった季節外れの七夕花扇でしたが、2021年が終わるのと同時に、私の七夕花扇制作もこれで打ち止めになりそうです。