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■ 近頃のこと

2022/03/26

胸膨らむ瓢箪から駒

ここ数日、『書院懸物図』という版本にある、1月松竹梅平薬の復元に再挑戦していました。

前にも書いているのですが、もう20年近く前、古本のカタログに『書院懸物図』という江戸期の版本が出たのです。

それは、藤原定家が十二ヶ月の花と鳥を詠った和歌から、それぞれの花と鳥を1つの平薬にした図案集でした。

この版本の正確な書名は『懸物図鏡』というらしいのですが、誰の手に渡ってそう書かれたのやら、私が手に入れた版本の表紙には『書院懸物図』と筆書きされています。

カタログにそれを見つけた時は、既に定家が十二ヶ月の花を詠った和歌から、恐らく御所に残る粉本の写しと思われる図によって復元し終えていたのですが、私がなおも『書院懸物図』という版本を85000円でも買わずにいられなかったのは、1月の図案が知りたかったためだったのです。

定家が1月に詠った花は柳なのですが、花のみの図案では松竹梅にされていて、『定家の一月の歌は柳なのだけれど、柳では花負けしてしまうので、松竹梅にした』との注記があったのです。

それで、『書院懸物図』には柳の図案があるのではないかと、切実な期待を持ったのです。

しかし、文面こそ違うものの、花のみの図案と同じ内容の注記があり、残念ながら柳の図案ではなく、松竹梅だったのでした。

落胆を逆撫でするように、『書院懸物図』にある図案のどれもが明らかに江戸趣味で、それ故のことか、よりにもよって鳥は押絵で作ると書かれているではありませんか。

いくらなんでも‎と思うばかりの上に、白色が刷り落とされている半端物。復元どころか、腹ただしく仕舞い込んでしまったのです。

それが10年も過ぎたある日、ふと鳥を木彫彩色にしたなら面白く出来るのではないかと思いついたのです。直ぐ、6月の『常夏と鵜』を皮切りに、復元に着手したのでした。

その1月の平薬ですが、輪の上中央に松が配されているものの、実際に作ってみれば収まりが悪い上、そこに松が無かろうと構成に何の問題もなく思えましたので、復元からは外れるのですが省いてしまったのです。

しかし、何とか松竹梅を叶えさせなければなりませんから、苦肉の策で鶯に若松の小枝を咥えさせたところ、それが好評だったのです。

その後、望んで頂いた方の手元に渡ったのですが、どこかに復元を果たせなかった気持ちが残ったままでいた先月、珍しく木彫彩色の鳥による復元への理解者が現われたものですから、ちょうど依頼をこなし終えて手隙になったことだし、せめて1月分だけでも補ってお見せしようと、再挑戦を思い立ったというわけなのです。

嶋台制作のために作った松が余っていましたから、それを当てはめてみれば、今度は難なく収まって思えました。

木彫りの鶯は、お気に入りの図鑑を彩色の手本にすれば、本来の鶯色に出来上がったのに気を良くしたりで、一気に仕上がったのです。

梅を前作ほど図案に忠実な配置にせず、オリジナルに勝っての完成だったことから、ならば柳と鶯による定家の歌本来の平薬を創作しても許されるだろうと、突然思い付いたのです。
即座に図案を描きました。

鶯の季節の柳とて、黄色の花をつけた芽吹きの頃にして、太い幹を1本だけ斜めに渡し、鶯をそこに止まらせるのです。

思えばオリジナルの平薬制作など、昨年五月ぶり。
押し寄せる春に、ボケの蕾が日毎に膨らみますが、この思いがけない『瓢箪から駒』に、私も胸を膨らませているのです。

書院懸物図 表紙

1月松竹梅平薬 図案

鶯

平薬

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