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■ 近頃のこと

2022/05/02

十二ヶ月の銚子飾り

まったく昼時の定食屋さながらに、どういう訳か制作依頼というのも集中して来るもののようです。

3月末から6件も重なってしまい、申し訳ないのですが、依頼の着順ではなく、例えば端午の節句に先立つ展示に使いたいとかいう、納品を急ぐ依頼を優先させて制作しなければなりませんでした。

一番最初の依頼でありながら、泣く泣く制作を中断させなければならなかったのは、婚礼三三九度に使う銚子の飾りを、十二ヶ月の花で作って欲しいという、有職造花師冥利に尽きるプランだったのです。

それを作り始めて直ぐに舞い込んできた、納期に間もない依頼のうちの1つが『真の薬玉』だったのですが、家紋が藤なのでどこかに藤の花房を付けてもらう事は出来ないだろうかと言われたのです。

伝統的な薬玉に、私事を挟んで良いものやらと、遠慮して言って来られたのですが、品位が著しく落ちるというなら論外ながら、『真の薬玉』を有職造花の別格としたのなど、確かな根拠の上とは思われないのですから、一向に構いませんよとお答えしたのです。

そして又、そうした依頼にこそ本領を発揮出来るというか、即座に応じられることが私のお家芸のようなものなのですから、造作もなく出来たのでしたが、その間も銚子飾りをどんな花にしようかと考えては、何度もメモを替えたり、仕上がりのイメージを固めたりしていたのです。

銚子は、長柄の銚子と加えの銚子(提子)の2種類がありますから、どうせならと十二ヶ月24種類の花で飾ることを即座に提案しました。

とにかく、銚子が手元にないことには花の寸法が出せませんし、構成やらも出来ませんから、早速送って頂いたのですが、銚子はもう30数年前、依頼者の婚礼の際にお父さんが京都で誂えられたものなのだそうです。

どうしたわけだったのか、それが婚礼には使われず、長い間仕舞われていたのだとか。錆などまるで無縁に、あたかも取り寄せられたばかりのように眩しい金色なのは、そのせいでもあるのでしょう。

20本もの水引きを結んだ、豪華な雄蝶雌蝶が別箱に用意されていましたから、お父さんの想いも残ることでしょうし、折角ですからそれを生かして花を添えることにしたのです。

雄蝶雌蝶の紙包みと水引きの間に竹筒を忍ばせ、それに十二ヶ月の花を差し込んで飾るように細工しました。

そもそも、有職造花のような、消えゆくばかりにある特殊な伝統工芸や文化を、地方に紹介したいとお考えの依頼者のこと。既に嶋台ばかりか、3種類の肴台(押台、富貴台、控台)まで揃えて居られるのですが、この24種の銚子飾りも、専用の飾り台を誂え、ズラリと並べて披露したいと仰います。

それにしても、十二ヶ月の花と鳥による平薬を2種類復元し、また月次図屏風も描いたりしてきた私ですら、銚子飾りを月毎に誂える、いわば『月次銚子飾り』など思い付きもしませんでした。

制作を再開した現在、やっと18種類が出来ています。
十二ヶ月の花24種の計画を下に記しましたが、何れも先のが長柄の銚子、後のが加えの銚子の飾りながら、どうしても10月の1つが思いつかないのです。

1月『雪被り若松』『松にヤブコウジ』
2月『3色椿に笹竹』『紅梅白梅』
3月『桜』『連翹』
4月『山藤』『青楓』
5月『卯の花』『黄菖蒲』
6月『常夏』『紫陽花』
7月『合歓の花』『七夕』
8月『紅蓮』『白蓮』
9月『朝顔』『桔梗』
10月『菊』『?』
11月『紅葉』『薄(ススキ)』
12月『水仙』『寒牡丹』

全ての納品が完了した際には、『婚礼の有職造花』でご覧に入れられるかと思っています。

真の薬玉

長柄の銚子(藤)

加えの銚子(白蓮)

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