月別アーカイブ

■ 近頃のこと

2022/06/23

上達と沈没と

ここ4年ほど不安があった体調ですから、初めて人間ドックの予約をしてみたのです。
それでもし入院にでもなったらと思うと、トラをどうしようか、心配はそればかり。

何しろ、回覧板を渡しに後ろの家に行って世間話していれば、いつの間にやら迎えに来ていて、門柱の向こうからニャーと呼びかけてくれるトラですから、私が突然帰らなくなったらどんな思いになるだろうと、考えるだけで心細くなるのです。

そんなこの頃の制作はというと、また『懸物図鏡』から、9月(ススキ、白桔梗に鶉)、10月(菊に鶴)図案を再復元していたのですが、それがやけに調子が良いのです。

最初の復元から随分時が流れましたが、この復元が注目された気配など全くなかったというのに、ここに来て長崎の神社で月替わりに飾られるとか、来春には横浜の施設で展示したいとかの話が舞い込んだりしたため、1月の図案再復元に続いて、これもコレクターに引き取られて欠けていた、9月の平薬を再び復元したのです。

復元の原図である『懸物図鏡』は、私が思っていたより遥かに貴重な資料らしく、それ故に学術的な価値からの復元となれば、版本に記された通りでなかったら、復元とは言わないのかもしれません。

例えば、12種類の野鳥は押絵で作ると記されているのですから、その通りにしなければならないのでしょうけれど、そもそも有職造花に押絵を合わせるなど私には耐え難く、それ故『懸物図鏡』を大金で買い求めながら、10年以上も放ったらかしにしていた私には、どだい無理な話。

小学校4年で押絵の羽子板を作っていましたから、押絵での鳥などそれなりに出来るでしょうけれど、そもそも学術的な復元が興味外なのです。

ともあれ、再復元の制作はとても面白く順調で、同じ図案からの復元なのに、思いがけない程端正に仕上るので、こんな物言いは滅多にしませんが、知らぬ内に腕が上がっていた感触を得たのでした。

もっとも、そう仲間に話したら、仏壇の蝋燭が消え際にボワっと勢いよく燃え上がるようなもんじゃないの?だそうです。

9月『ススキと白桔梗に鶉』の最初の復元では、鶉の彩色に随分と難儀して、京都画壇の花鳥画から写したように思いますが、今度は『原色精密日本鳥類写生大図譜』に載る鶉を手本にしたところ、何しろ文様やらがとても分かり易く描かれているので、迷いもなくサッサと仕上がってしまいました。

ススキは、穂を出したばかりでしょうから薄紫色に染め、白桔梗を上等の白絹で作ったのも、スッキリと仕上がった要因に思います。

そんなこんな、すっかり気を良くしたので、どうにも気に入らないで来た、10月の『菊に鶴』の平薬も作り直しに掛かったのです。

不満や疑問は、花の色にありました。
復元というので、あくまで版本にある通りとこだわったのでしたが、そもそも版本の色数など、何枚の版木を使うかという、出版コストの都合だけのことでしかなかったでしょうし、版本が原図の通りかなど、甚だ当てにならないわけです。

そうとは知りながら、最初の復元で花色を変えたり加えたりするなど出来なかったのは、自分にそれをする資格があるのかという躊躇を越えられなかったからだったのです。

今回自分の考えを優先出来たのは、やはり30年に亘る有職造花制作の継続で、幾らか自信の類いを持てていたからかもしれません。

継続とは繰り返しにあらず、試行錯誤の再出発を積み重ねる事でなければなりません。そしてその度に、進歩に辿り着けなければなりません。
昨夜突然、或いは有職造花制作最大の課題である、女郎花の作り方を思い付きました。

朝から、頭の中でのシミュレーションを実践してみたのですが、またもや沈没したのでした。

2022062301.jpg

2022062302v2.jpg

2022062303.jpg

上達と沈没と

ページトップへ