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■ 近頃のこと

2022/12/21

横浜人形の家での有職造花展示

来年2月18日(土)~3月26日(日)に、横浜人形の家でひな人形展が開催される予定なのですが、そこに私の有職造花を飾りたいという話が舞い込んだのは、昨年7月の事でした。

最初私は、雛人形の展示の間に、賑やかしとして少しだけ飾られるのだろうとばかり思っていたので、どんな展示にしたら良いか、考えあぐねておられるらしいのを知っても、進んで対応することも無くていたのです。

それが今年5月辺りから急速に進展して、6月初めに来訪があってから一気に現実味を帯びてきたと思えば、前期後期ともに30点ほども展示されると言われるのです。

思いがけない規模でしたので、有職造花の全貌を紹介したい意図ならば、ホームページでの分類で、その代表的なものを網羅されたらとお伝えして決まったのが、下記のプランなのです。

①『節供の有職造花』→掛け蓬莱、真の薬玉、七夕花扇、茱萸囊
②『節句人形の有職造花』→桜橘
③『婚礼の有職造花』→嶋台
④『復元の有職造花』→『懸物図鏡』より、1月~12月平薬
⑤『伝統的な有職造花』→行の薬玉、草の薬玉
⑥『オリジナルの有職造花』→春夏秋冬のオリジナル平薬を各4種

私の有職造花は、どれもが一品物ですから、売れてしまえばそれで手元には無くなってしまいますし、依頼で作るものなどは、完成と同時に引き取られてしまいますから、在庫という物がありません。

公家文化の行事に必要不可欠だった、節供用の造花というのが有職造花の起源であり、存在価値でもあったのでしょうから、当然第一に展示紹介されなくてはならないでしょう。

そんな有職造花の代表格として、真の薬玉や茱萸囊(ぐみぶくろ)、そして七夕花扇(たなばたはなおうぎ)があるのですが、とりわけ七夕花扇ときたら知名度などないに等しい上に、実物は3尺3寸(約1m)と規模が大きく、当然制作依頼など1度もありませんでした。

ススキ、女郎花、桔梗、撫子、菊、蓮、白萩という、決められた7種の初秋の野の花を束ねたもので、下男の1人が七夕花扇を抱え持ち、もう1人がそれに日傘を差し掛け、その前に若い女性が送り状を携え持つという3人が、毎年七夕の朝に『花使い』として御所に向かうのに見物人まで出たとか。

しかしその実、送り状には『これを持たせた女がお気に召されたならば、どうぞ夜伽に。』と書かれていたのだそうで、優雅な行事とは表向きのこと、生々しいのが世の常なのでしょう。

それはともあれ、御所では昼のうち鴨居などに下げ、小御所の池に星の映る夕べともなれば、それを浮かべて七夕の星々に手向けたという逸話は言うまでもなく、七夕花使いの絵を目にした瞬間から、すっかり七夕花扇に惹かれてしまった私は、およそ実物の3分の2の大きさで、3回制作を試みているのです。

とにかくパーツの量が多いのですが、中でも小菊の数が大量なのです。菊の花作りは全て手作業ですから、1花でハサミの切込みだけでも64回もあるため、制作には覚悟が要るのです。

しかし、名前も聞いたことがない、無論見る機会などあったはずもない物であるほど、展示価値はあるでしょうから、茱萸囊共々この際4回目の制作に踏み切ったのです。

実は昨年、それで七夕花扇制作は打ち止めにしようと、花の種類を厳守しながら、あまり面白味のない復元から離れた、オリジナルの七夕花扇を作っているのです。

今回の七夕花扇もオリジナルながら、より花の配置に伝統を意識して構成したのですが、うまいこと運んで思いの外早くに出来上がってから、ふと『近頃のこと』を振り返ってみれば、昨年もまるで季節外れの12月同時期の完成だったのには驚きました。

しかし、『思いの外早く』とは近頃よく感じることなのです。有職造花制作など、9割方下仕事の同じ繰り返しなのですが、単純作業ほどそれが苦痛でなくなって来ているのです。

人生から何から、全てに押し詰まっての気の長さという事なのかどうか。ならば暮れに一際手の掛かる七夕花扇を作るのは、いかにも相応しいのかもしれません。

七夕花扇

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